5剣術修行への出発
そして、竜真は十五歳を迎え、成人した。
実は竜真は幼き頃から剣術道場に通っていたのだ。それなりに剣術の腕は良く、右に出る者はいないほど。その力量を認められ、首都古京にある剣術の名門、大東道場へと剣術修行へ旅立つことになったのだ。
そして、大京国の首都、古京へと行くべく、街道を進んでいたはずだったのだ。
そう、はずだったのだ・・・。
基本的に大京国への中心地、古京へ行くのであれば、主要街道をまっすぐに進むだけ。
主要交通路で、商人や旅人など人通りも多い。
地図を持たなくとも、迷うはずがない。
だが、竜真は超がつくほどの方向音痴だった。
気づけば、街道はおろか、道すらなくなり、草藪の中をかき分けている。
ふと、そこへ、お天道様の思し召しなのか、獣道ぐらいの小さな道が現れる。竜真はこれこそが古京へと続く道と、意気揚々と進むこと、約半刻。建物が見えるようになる。
村だ。
「おいっ。」
村の入り口で誰かに呼び止められ、竜真は振り返る。
そこにいたのは、いかにも、極悪、という感じの強面のお兄さん。上半身は裸、顔や上半身には刀傷。手にはむき出しの刀を垂れ下げている。
「この落人村に何の用だ。」
「落人村??、あ、あの・・・少し、道に迷いまして・・・古京へは、どちらへ・・・。」
竜真は、完全にビビっていた。どぎまぎしながら答える。
「古京なら、そこの出口を出て、目の前の道をまっすぐに進め。獣道ような道が続くが、そうすれば街道に出る。」
「あ、あ、ありがとうございます・・・。」
竜真は、その出入り口の方向へ向き、進もうとするが、
「おいおい、待て。情報を出してやったんだ。情報料がいるだろ。有り金全部おいていけ。」
お決まりのパターンだ。でたぁ。という感じで竜真は心の中で叫んでいた。
「あのぉ、これで・・・勘弁してください。」
といって、とりあえず、少々の金を出す。
「ふん、全部と言っただろ。」
「いやぁ、そのぉ・・・。」
躊躇していると、来ましたとばかりに、他にも悪そうなやつらが周りに徐々に集まる。竜馬は壁を背に、周りを取り囲まれてしまう。みんな上半身裸、ボロボロの布切れ纏い、いかにも、という極悪人顔だ。
「そのぉ、だめですか?」
「払えないというなら、かまわない。奪うまでさ。」
ふと、竜真の脇から、誰かが飛び込み、竜真の頭を狙い、刀を振り下ろす。
竜真はそれをよけ、そこから、攻撃をして来た者の胴へと峰打ちを食らわす。これでも地元の道場では優秀な成績、この程度なんのことはない。
相手はその場に倒れた。竜真は次の誰かが攻撃してくることに警戒する。
だが・・・
バキッ!
背後の壁から凄い音がしたの同時に、背後の壁を突き破り、壁から腕が伸びてきて、竜真の首を掴んだ。
まさかの一瞬だった。
竜真の背後の壁の裏に誰かいたのだ。壁を突き破って腕が伸びて、後ろから攻撃されるとは竜真も想像してなかった。
「馬鹿が。あんたもそこそこできるようだが、うちらをなめるなよ。」
と最初に言葉を交わした悪人面の男が話しかけてくる。
さらにバキッバキッ!という大きな音とともに、背後の壁がぶち破られる。
そこには相撲取りかという思うような大男が立っており、彼の腕が竜真の首をつかんでいた。竜真は、腕をつかんでもがくも、掴まれた首の部分に徐々に力が強くなり、のどをつぶされそうになる。
(だめだ。力が入らない。)
竜真はここで悟る。まさか、こんなところで死ぬのかと。
竜真は必死に腕を引き離そうとするが、離れない。そして、徐々に意識が遠のき、段々と力が入らなくなる。
意識が遠のくと、走馬燈が見えるのだろうか。竜真の脳裏に、故郷、千砂ノ町の海辺の風景や地元の街並み、剣術道場など風景などが頭に浮かんだ。そして、あの日、黒船に乗り込んだことも頭に浮かんでくる。
(『蒼蓮腕』・・・あれは美しかった。天を貫いたあの青白い炎、あのおじさん、魔術とか言ったか?)
「ま、魔術・・・か・・・。」
竜真は小声ながらも、昔の風景を走馬灯に思い出しながらも、思わずに竜真の口からはその言葉が漏れた。
だが、その一言は思わぬ効果を表す。
突然、大男は首をつかんでいた腕は解放し、ドサッと竜真は地面に倒れた。
竜真が意識を朦朧としながらも周りを見渡すと、悪人たちは驚いたように、顔を互いに見合わせていた。
「き、貴様、魔術が使えるのか?」
竜真は意識が朦朧とした状態だが、朦朧とした状態で返事を返す。
「・・・あ、あぁ・・・。」
しばらくの間、沈黙が続いた。
「お頭・・・。」
沈黙の時間が続き、そこで竜真の意識は完全に途切れた。