66ダニエル
竜真は立ち上がり、ダニエルに面と向かう。
「ダニエル!!貴様!」
「ほう、最近は配属された兵か。バルブレア隊長は優秀な人材だったが、将軍としての器ではなかった。」
「しょ、処分って。味方だぞ。」
「それがどうした。ここは戦場だ。たとえ味方だろうと、任務遂行ためならば、あらゆることを遂行する。」
「任務遂行だからって、味方だろ。」
「だから、それがどうした。味方だろうが、任務遂行のためなら、味方の屍すら踏みつけてきた。それが我が国の万年続いた歴史、世界の覇者として君臨してきた強さだ。周りを見よ。ここにいる者は、皆その覚悟がある。覚悟ある者が集まった強者ども。それこそがバランタイン最大の武器。そこに魔術という最高の武器が加わり、世界最強と呼ばれる軍となった。」
竜真は、横目で周りを見た。皆、このやり取りを見ている。そして、その目は確かにダニエルの言う通りだった。国のためならこの身を捧げてもよい。それはまさに大京国の士族の心とも言える信念を持った目。
ダニエルは続ける。
「どうやら、徴兵された兵は教育がなってないな。我が軍に我が身可愛さを優先のは不要。今後はこのような悲劇が起きないよう徴兵の基準や教育を施さなければいけないな。けど、非常に残念だ。残念だが君たちのような者がいると、軍紀が乱れるんだよ。そして、それは最優先に排除しなければならない。先に謝っておこう。君たちには非はない。だが、これも我がバランタインのためだ。」
バン!!
ダニエルは突然、懐に持っていた銃を撃った。だが、それは竜真の察知能力で容易に躱すことできた。
「ほう、躱すとはさすが。まさか、魔術プレディクションの持ち主かな、惜しい力だな。」
「はぁ、プレディクションだと?」
「ん?プレディクションの魔術を知らないのか?バンランタインから徴兵されたのだろ?前から気にはなっていたのだが、その髪色、顔立ち、それにその刀・・・まさか、敵国の者か?」
「・・・。」
ここで即座に、いいえ、答えれば事なきを得るが、竜真は真面目なのだ。
「沈黙は、Yes、と同じだ。そうか、は、は、は、あのサルどもが、こちらに密偵を送り込んでいたか。まぁ、いいわ。潜入するなら、もっと魔術のことを学ぶべきだな。どちらにしろ、バランタインのために消えてくれ。」
ダニエルの逆の手が淡く光ったと思うと、そこには銃が出現した。
「えっ。」
思わず声を上げたのは葵だ。ダニエルの手に出現した銃、それは紛れもなく魔銃だったのだ。
「プレディクションの魔術でなく、察知が出来るレベルなのだろ?ならば、察知がきても、体が反応できないようにするまで。」
バン!!
と乾いた音がした。それに呼応するように、
パン!!キン!
ともう一発銃声と金属が破裂する音がした。
葵が瞬時に魔銃を発砲し、ダニエルが発砲した実弾と魔銃の銃弾に命中させたのだ。
「おい、おい、魔銃で、魔銃の弾丸に命中させたのかよ。聞いたことないぞ、こんな技。何とも惜しい力だ。だが、さて、これでどうかな?魔銃ロケット砲だ。」
ダニエルが出現させた物、それは、魔銃よりも大きく、まるで大砲の形状をしていた。おそらく、魔銃を応用したものと思われる。
それをダニエルが肩に担ぐと、魔銃ロケット砲から、葵めがけて大火砲が発射された。
葵も魔銃で大火砲の砲弾を狙うが、威力が違いすぎる。
その瞬間、弾道に竜真が割って入った。竜真は大火砲を刀で両断する。大火砲は左右に割れて竜真と葵を避けた。
だが、ダニエルは魔銃ロケット砲の直後に魔銃を連射していた。
魔銃の銃弾の嵐が竜真を襲う。
葵こそ無事だが、竜真は、その場に・・・倒れた。
「竜真?」
竜真に近寄る葵、竜真の体からは多量の血が流れ出ている。
思わず、竜真を抱く、葵。その手にも血がべっとりと付着する。
「えっ、ちょっと」
そこに背後へと現れたのはダニエルだ。ダニエルは腰につけていたサーベルを抜刀し、その場にいる葵と竜真をめがけて剣先を向ける。
「悪いな。我がバランタインのためだよ。」
ダニエルは、剣先をそのまま葵の背後へと突き刺した・・・と思ったが、倒れたはずの竜真が葵を付き飛ばす。代わりに竜真の脇腹に剣先が突き刺さる。
ブホッと、竜真は吐血した。
「あ、葵は俺が守る・・・。」
それでもなお、竜真は葵を庇った。
「この期に及んでもなお、レディを守るとは、紳士だね。だけど、これで最後だよ。」
ダニエルはサーベルを竜真の体から引き抜くと、再び、それを竜真に向けて振り降ろした。