65魔導砲
艦艇が消滅していた。
「えっ、な、なにこれ。」
声を発したのは葵だ。二人ともずぶ濡れなりながら、海上を漂う艦艇の破片にしがみついていた。
そこに今まで竜真たちが乗艦していたはずの艦艇の姿はなかった。あるのは、海上に魔導砲が通過したと思われる軌跡に沿って、半円状の一直線の「道」だった。
道という表現は正しくないかもしれない。一瞬だけ魔導砲の軌跡に沿って、一直線の半円状に海水が消滅していた。だが、それは一瞬の間。直後に、海水が消滅していた半円状の部分へどっとなだれ込む。
消滅したのは先ほど竜真たちのいた艦艇だけではない。
半円状の一直線の「道」に触れるているもの、例えば、他の艦艇の船首や船尾なども綺麗に消滅していた。
しばらくすると、船体の大部分を消失した艦艇は海面下と大きな音を立てて沈没し、その時の衝撃で大きなうねりが起きる。
無事な艦艇も残っており、海を漂っている兵たちは、無事に残った艦艇に救助されているようだ。
しばらくして、葵と竜真も別の艦艇に救助された。
そこには衣類がボロボロのバルブレア将軍の姿もあった。
「君たちは無事だったか。ダニエルの奴め、何を考えているんだ。」
あの巨大な母艦が一瞬で消滅したのだ。
一方で、天音の姿は見当たらない。あの人がこの程度の魔術でやられるとは思えないが・・・。
とりあえずは救助された艦艇で休憩となった。
それよりも、中央艦隊は南艦隊を巻き添えにした。竜真は大京国側の人間ではあるが、味方を巻き込んだ攻撃に怒りを感じえなくない。真意を問いたい。
海の先にはこの被害を作り出した中央艦隊の艦隊が見えているが、こちらに向かっているようだ。
中央艦隊は合流するや否や、伝令の兵たちが南艦隊の艦艇と乗り込んできた。
「各艦隊は、損害状況を中央艦隊指令まで連絡せよ。また、大京国の敵兵の死体を見つけた者は報告せよ。」
悪びれることもなく、何事もなかったのように機械的に、連絡をしてきた。
それに合わせて、艦隊長のダニエルが姿を表してきた。
睨むようにダニエルを見つめるバルブレア将軍だが、最初に声を発したのはダニエルだ。
「おう、よかったな、結構な数、生きているじゃないか。」
その発言を聞いてバルブレア将軍がダニエルに詰め寄ってきた。
「ダニエル、どういうことだ。お前は味方を攻撃したんだぞ。」
「それがどうした。いくら魔術でも、海を走って艦艇まで斬るような奴を相手したとこで勝てるわけないさ。すでに北艦隊は潰走、我らバランタインに負けは許されない。だから、その犠牲になってもらった。まぁ、あいつの死体が見つかってないということは、無駄死にだった可能性があるわけだがな。それでもバランタインにために死ねた。名誉なことじゃないか。」
「お、お前、無駄死にだと。」
「我が国の繁栄のためだ。そのための必要な犠牲だ。先代たちも数多の屍を踏み越え、今の国の姿がある。君もバランタインの将軍の一座さ。理解していると思うんだけどね。」
「はぁ、貴様本気で言っているのか。」
「あぁ、本気だ。我がバランタインの繁栄のためならば、命など惜しくはない。我が兵たちはそんな猛者がたちが集まっているはずだ。死んだ兵たちも、バランタインの繁栄のためとあれば嬉しいだろ。」
「国の繁栄も大事だ。だが、兵も使い捨てではない!ダニエル、貴様には人の命を・・・」
バン!!
銃声がした。
ダニエルが突然、懐に持っていた銃を撃ったのだ。
「残念だ。君の言いたいこともわかる。だが、それはこの戦場で論じることではない。君は我がバランタインの将軍の資格はないよ。」
とっさのことに周囲が一斉に注目した。竜真は、一部始終を見ており、とっさにバルブレア将軍のところへ駆け寄る。
「おい。大丈夫か。」
「す、すまん。私はバランタインの民の繁栄のためにと、志を目指していたが、どうやら、見誤ってしまったらしいな・・・。」
遅れて葵も近づいていく。
「葵!」
「わかっている。少し黙ってて。」
葵は銃創のところに手を当てると、ほんのり淡い光が漏れていく。再生の魔術リジェネで傷を塞ぎ、治療の魔術キュアで治療の二重魔術を施す。治療の魔術も、二重魔術の技術もバランタインで習得した魔術だ。
バルブレア将軍から流れ出ていた血はとまり、傷も塞がったようだが、気を失ったままだ。




