64中央艦隊
こちらは、中央艦隊。
ダニエルはその母艦から双眼鏡でずっと戦いの様子を見ていた。
北艦隊は、大京国の狂気じみた侍により敗北。
南艦隊は、まさかの海上を走るという、人間技とは思えない奴の登場で、今まさに敗北を喫しようとうところだった。
「フフッ、ハハハ。」
常識を超えるぶっ飛んだ戦いを見て、ダニエルは思わず笑ってしまった。
「とんでもねぇのが、大京国にいるね。作戦変更だ。南艦隊将軍、ごめんよ。悪いけど、君には我がバランタインの犠牲になってもらうよ。君はバランタインの英雄だ。魔導砲の準備だ。」
魔導砲、少し前にモルトがパーティを開いた際にデモンストレーションした古代魔術である。
その威力は山を丸々と消滅するほどの威力がある。
「で、ですが、南艦隊はまだ、味方が・・・。」
「北艦隊はすでに猿どもに潰走しやがった。もう、負けるわけにはいいかないのだよ。それに、見ただろ、あれを。まともに勝てるわけないさ。他に算段があるかい。南艦隊は、バランタインの英雄として語り継がれるだろう。」
ダニエルは、味方を巻き添えにして、天音を仕留める気だ。
―――
こちらは、南艦隊。
竜真、葵は、未だ天音の動きに唖然としていた。
残っている魔術兵たちが天音へ高位の魔術を連発するも、すべてが消されていく。
「嘘だろ・・・。」
と言いながら、寝ぼけているのではないかと目をこするが、現実で起きているのだ。
一方で、竜真は何かの異変に気づき始めていた。
「なぁ、なにか、おかしくないか。」
「何がよ。」
「空の様子がさ・・・」
天気は先ほどまで晴れていた。そこに、不自然なまでに急に暗い雲が集まり、ピカっと空が光り、ズドン、という激しい落雷が落ちる。
竜真は察知の能力を全開にして、気を錬成すると、
「はっ!」
と気づいた。何かとてつもない気の高まり、人一人が錬成できる量を遥かに凌駕する気の高まり。
それは、ここから離れた位置にいるダニエルのいる中央艦隊からだ。
その方向を振り向く。目を細めて見ると、ダニエルの艦艇団が綺麗に一列に横方向に並んでいる。それぞれの艦艇の甲板付近で光漏れている。おそらく、魔術兵たちが気を錬成しているのだろう。
「葵、ここじゃない!ダニエルだ!ダニエルが集団魔術を錬成しているんだ。まずいぞ、この感じはあれだ。」
「あれって何よ。」
忘れるはずがない。あの日、パーティに呼ばれ、モルトが実演したデモンストレーション、禁術、魔導砲だ。
「魔導砲だ!ここにいると巻き込まれるぞ!」
竜真はその場にいる者たちへも聞こえるように大きな声で叫ぶ。
その直後に中央艦隊方向から光が発せられた。
「ここにいると直撃するぞ!」
竜真は、瞬時に葵の手を引っ張る。もうすでに、魔導砲は放たれたあとであった。とにかく、走って船首側へと逃げる。そのまま、海へと飛び込み、退避する。
その直後、暗雲から落雷が落ちると同時に、目の前が真っ白になる。わずかに遅れて轟音が襲う。あまりの轟音に耳がいかれたのか、無音の状態になるが、胸に轟音の振動が伝わる。
竜真は瞬間に目をつぶった。
ゆっくりと目を開くと、目の前の真っ白の光景がもとに戻ったことと、轟音が過ぎ去ったことを確認し、後ろを振り返った。