61北艦隊 初戦
翌朝から大艦隊はバランタイン沖から本格的に西を目指して移動をはじめた。
大京国の海域につくまでは、数日間ほどの航海となる。その間、時間があるからと、集団魔術の演習が行われた。
集団魔術を発動するには、リーダの魔術師の指示のもと、気を集中する。気の波というのが重要らしい。皆がそれに合わせて同調することで、人一人では出すことのできない高出力の『気』を錬成することができるとか。
そして、約五日が経過する。
前方に薄っすらと複数の艦隊が見える。大京国側の艦隊だろう。
だが、見ればわかる。バランタイン側の艦艇に比べれば、ハリボテのようなもの。一目瞭然だ。
それに数が圧倒的に足りない。こちらのバランタイン側の艦隊は海を埋め尽くさんとするほどに対し、大京国のそれは、まるで豆粒のようなもの。
もし、バランタインと大京国、どちらが勝つかと聞かれれば、百人いれば、百人がバランタインと答えるだろう。
大京国の艦隊とバランタインの艦隊が対峙する。
初めに動いたのはバランタイン北艦隊だ。
北艦隊所属の全艦艇が一斉に前進し始める。それ同時に先頭に位置する艦隊が砲撃を始める。一部の砲撃は大京国側の艦艇にかすり、黒い煙が上がる。
一方、こちらは大京国側、バランタイン北艦隊からの攻撃を受けると、艦艇が大きく揺れ、黒煙が上がると船内から兵士たちが皆大急ぎで飛び出し、慌てふためき混乱をする。
「お前ら、落ち着け。この程度ですぐには沈まん。それより、こちらも砲撃準備だ!」
艦艇の甲板上から隊長らしき人物が大声で兵士たちへ砲撃を指示する。
「準備できました。」
と兵士の合図を気に、
「撃て!」
と大声で指示を出す。
ズドーン!
と大きな音が響き、大京国の艦艇から砲撃が行われる。だが、その砲弾は綺麗な弧を描きながらも、敵艦まで届かないことは明白で、何もない海上に着弾する。
艦艇を利用しての海戦の経験がまったくない大京国側からすれば全くもって初めての経験だ。砲撃も急ごしらえで準備したので、十分に訓練できてない。
一方、バランタイン北艦隊の様子に戻る。
艦隊上の兵士たちは、大京国からの砲弾がこちらには全く届かず、何もない海に着弾するの目撃すると、それを見た兵士たちはどっと笑い出す。
「なんじゃありゃ。」
「おい、見たかよ、あれ、余裕じゃねえか。」
「サルが鉄砲撃ってきたぞー、当たらねえけどな。」
艦隊長が兵士達へ指示を出す。
「おい、大京国のサルどもにお手本を見せてやれ。」
北艦隊の先頭艦隊は一斉に艦艇の向きを変えて、砲台の設置されている艦艇の側面側を大京国の艦艇へ向ける。
指揮官の兵士の一人が叫ぶ。
「斉射!」
その合図をズドン、 ズドン ズドン ズドン、と腹に響くような低音の砲撃音が海上に響く。放たれた砲弾は大京国側艦隊にことごとく直撃する。
指揮官の兵士は再度叫ぶ。
「斉射!」
その「斉射」の合図を気に さらにズドン、 ズドン ズドン ズドン、という砲撃音が何度も聞こえる。
開戦して間もないというのに、大京国側の艦艇からはいくつも黒い煙が立ち上がり、一部の艦艇は船壁に大きな穴をあけ、浸水し傾きかけ始めている。
大京国側の艦艇上で兵士たちは、逃げる者や、穴を塞ぐ者や、火の鎮火に急ぐ者など、大混乱を極めていた。
それを見ていたバランタインの兵たちは、再度笑い出す。
「おい、見ろよ、サルが慌ててるぞ。ははは。」
「おっと、ごめんよ、お猿さんのお船を燃やしちまったよ。ははっはっはっ。」
大京国側の隊長はそれを見て、チッと舌打ちをする。兵士が隊長に報告する。
「隊長、第三艦艇から連絡、砲撃により制御不能、第四艦艇から連絡、火の手が上がり現在鎮火を急いでいるとのこと。第五艦艇とは連絡つかず。第六艦艇・・・。」
「もう、よい。見りゃわかる。」
「はい?」
「もう報告は不要とだと言っている。そもそもこんな異国の大砲だとか、船だとかに頼るからこうなるんだ。」




