53特殊部隊の武術訓練
午前の魔術訓練が終わると、午後は武術訓練だ。
担当は試験官を担当してくれたグレンだった。
初めて、グレンの顔をまともに見た。昨日のグレンはフードをしていたので、見えなかったが、今日はフードをしていない。
白髪に、青い目、バランタインであれば、よく見かける顔立ちだが、なぜか、その吊り上がった目には、邪なモノが感じ取れてしまう。
人を顔で判断するのは良くない。
当初は、武道館での剣技の修業を想像していたが、どうやら大きく勘違いしていた。
最初の訓練は歩き方だ。如何に足音を立てないか。相手の気配に悟られず、如何に背後を狙うか、如何に、一撃で相手を仕留めるか、如何に後を残さないか、つまりは、暗殺を前提とした武術だ。
まったく修業の方向性は違ったので、ためらう部分があったが、一応、剣技の修業もあった。これまでも大東一刀流として修業していた身だ。暗殺の技術ではないが、剣技はそれなりの技量がある。
「なるほど、君は魔術は使えないが、見切りと剣技はすごい。君たち、我が特殊部隊と手合わせしてみるとよい。おい、バレルはいるか?」
竜真の剣技を見極めてか、急遽手合わせをすることになった。相手はバレルと呼ばれる人物。
しばらくすると、広場に上半身裸で筋肉ムキムキでモヒカン頭の大男が現れる。手には大きな斧、筋肉系のイカツイ人だ。
「お前、ヒョロヒョロじゃねえか、間違って殺っちまったらすまんな。」
突如、広場に現れたかと思うと、グレンの合図もなく、いきなり、斧一振りしてきた。
もちろん竜真と葵はそれをさっと躱す。そのまま戦闘開始だ。
バレルは、そのまま斧を振り連撃する。斧を振るたびに旋風がおき、一振りの威力がいかに大きいか。だが、武器が大きすぎるとあって、リーチが長い。竜真の察知能力を使うまでもなく、躱すことができる。正直弱い。
「葵!」
竜真は葵を呼び寄せ、二人で並び、いつもの体制で敵を牽制する。竜真の作戦は、斧を振り降ろしたあとの隙を狙って、懐に竜真が攻め、そこを葵の魔銃で追撃して仕留める算段だ。
バレルが斧で竜真へ振り下ろす。算段通り、その隙をついて、竜真が懐に攻め入る。作戦通り。そのまま竜真はバレルに一振りを浴びせようと刀を振る、が、その瞬間、バレルは消えた!
直後に背後からとてつもなく熱いものを察知する。とっさに振り返り、刀で守るが、背後からは襲ってきたのは剣戟ではなく、すべてを焼き尽くさんとする業炎だ。刀で守れるわけがなく、もろに業炎を受ける。
「竜真!!」
葵が叫ぶ。
炎に巻き込まれた竜真の背中からは黒煙が上がり、真っ赤に爛れていた。
バタン!
竜真は、その場に倒れた。
グレンが歩み寄り、竜真に対して手を近づけると、ほのかに手の近くが光る。治癒魔術か。
真っ赤な爛れが、みるみるうちに回復していく。
「それなりの技量はあるようだが、先入観をもって戦いに挑んだな。バレルの本職は魔術師だ。さらに、その体躯からは思えない程、素早さ尋常でない。筋力系だと相手を先入観をもって戦うとこうなる。まだまだだな。」
「うっ、ぐうの音もでません。完敗です。」
竜真の体はグレンの治癒魔術ですっかり元通りだ。
こんな感じで午後の武術訓練も終え、初日の訓練が終わったのだ。
―――
グレンは訓練の終わりに、地下通路にある魔導図書館に案内してくれた。
先ほども地下にこれほどの広場があるかと驚いたが、その魔導図書館には、それ以上に驚きがあった。さきほどの広場と同じぐらいの広い空間に所狭しと書棚が配置され、すべて本で埋め尽くされている。
「魔導図書館と呼ばれる場所だ。前にも言ったが、魔術はバランタインの先代が開発した秘術だ。それらの知識の集大成がここに集まっている。ここの本は自由に読んで構わない。魔術の勉学に利用するとよいだろう。」
竜真も葵も、手すりから身を乗り出し、その圧巻ぶりに圧倒されている。よく、見ると一階の奥の壁に鉄の扉が設けられて、鎖で厳重に巻かれ鍵をされている扉がある。
「気づいたか。中には、やばい魔術もあってな。そういうのは、すべて禁書庫に蔵書されている。魔導図書館は自由に使ってもいいが、禁書庫はダメだ。強力な魔術で封印されているから、入りたくても入れないがな。」
ふと横を見ると、目の中の瞳が本の形になった葵がいる。おい、葵、いくら魔導書が読めるからといってよだれをたらすな。
こんな感じでバランタインの特別部隊に入隊した。当面は、訓練兵ということで日々魔術と武術の訓練の日々が続いた。
訓練が終われば葵にせがまれ、この魔導図書館に来て、魔術の勉強に付き合わされた。地下の広場も自由に使って良いとのことで、覚えたての魔術や、新たな魔術の実験などに試す時間に費やした。