52特殊部隊の魔術訓練
翌日から、特殊部隊として早速、訓練を積むことになった。基本的には武術と魔術の訓練だ。
最初は魔術の訓練。ガーデンに現れたのは、昨日の試験官と、黒いローブ、怪しい帽子、曲がった腰、杖をつき、いかにも魔女という感じのおばあちゃんだ。白を基調としたガーデンに、黒々とした出で立ちがなんとも不気味。
「くッ、くッ、くッ、では、練習場に行くぞ。」
移動中も、ずっとにやけながら、
「くッ、くッ、くッ」
と謎の笑いを続けている。一応、名前を聞いては見たが、「くッ、くッ、くッ」と言い続けるだけで、返答はない。
連れて来られたのは、先日の拷問部屋の先の広間。
地下とは思えないほどに広く、まるで、闘技場のような広場だ。
「くっ、くッ、くッ、まずは、己の魔術を見せてもらうぞよ。」
魔女は持っていた杖を葵の方に向ける。
「お主、何でもよい。あたしに魔術で攻撃してみよ。」
「えっ、あたし1?」
びっくりする葵だが、「じゃぁ」と言うと、葵の手元が淡い光に包まれる。葵の得意魔術、魔銃だ。
そのまま魔女に向けて魔銃を放つ。だが、魔銃の弾は、魔女の手前で掻き消えた。
「な!」
葵は、連続で魔銃を放つ。弾道を曲げ、背後、横、真上、真下を狙うも、魔女に近づいた瞬間に、弾が掻き消える。
「うそ!」
「まぁまぁ、じゃの。どこで魔銃を覚えたか知らぬが、魔術の何たるかを何も知らぬようじゃ。」
魔女は、次に杖を竜真に向ける。
「次は、お主じゃ。」
次はと言われたが、竜真できるのは魔術で攻撃を察知すること。雷鳴剣のような攻撃であればできるが、葵の助けが必要。何か魔術で攻撃することは出来ない。
「・・・。」
しばらくの間、広大な空間に無言の間が生じる。
「・・・あの~・・・。」
竜真は魔女に説明する。
「・・・・・・・・・」
しばらく間が空いたが、魔女が一緒にいた試験官へ声をかける。
「おい、グレン=フィディック、どういうことじゃ!」
なるほど、あの試験官はグレンというのか。
「いや、君は、試験の時に、すごい魔術を使ったじゃないか。」
「えっと・・・それはですね・・・。」
竜真は葵に頼み、前日の雷鳴剣の再現する。大きな轟音とともに、広場の空間に紫色の電撃が無数に走る。
だが、魔女やグレンはそれを見せても一切の驚きを見せなかった。その程度は当たり前というのか。
「なるほど、くっ、くっ、くっ、男、貴様は気の鍛錬からじゃ。」
そういわれて、気の錬成に励むことになった。魔女に言われたのは、目をつぶって気を集中せよ、とだけ。大京国で葵に魔術を習っていた頃にもやっていたが、久しぶりだ。
竜真は、魔女に言われたように、気の鍛錬をする。静かに目をつぶり、身体の全体から気を感じ取る。
「すご~い、知らなかった~、えぇ、おばあちゃん、もっと教えて~」
気の錬成に集中する横で、黄色い声を出しているのは、葵だ。
全く集中できない。
今まで葵は独学で魔術を身につけてきたとあって、ちゃんとした魔術師に指導されるのは初めてだ。
あの魔女と一緒にそれはもう、楽しそうに魔術の練習に励んでいた。