51ガーデンの地下へ
その後、試験官の後に連れられて、ガーデンの中に入った。
合格者が通されたのは、城の内部の豪華な会議室。ツボやら、誰かの肖像画が飾られ、テーブルの上には、フルーツか、軽食とは思えないような豪華な軽食が用意されていた。
竜真と葵も、他の合格者と一緒に中に入ろうとするが、
「待て!」
そこで試験官が二人の入室を止める。
「貴様ら二人は別室だ。こちらについて来なさい。」
「?」
二人とも、疑問を持ちながら、再び、試験官の後を追う。
二人が連れて来られたのは、豪華な階段の裏にあった地下へ続く階段。
豪華な装飾などなく、ただの地面に段をつけただけの質素な階段。その先は薄暗く奥からは、冷たい空気が流れる。
豪華絢爛のガーデンとは違い、土壁が丸見えでランプが弱弱しく通路を照らす。ガーデンというよりも洞窟だ。
試験官は、あるところで、立ち止まり、脇にあったぶっきらぼうに建てられた戸板の扉を開く。
「入れ。」
薄暗い部屋の壁には、鋸や大きな刀、ペンチ、斧、鞭が吊るされ、もう片方の壁には、誰かを磔にするための鉄環が備えられている。部屋の片隅にあるのは、ギロチンに、無数の針がついているイス、使途不明の大きな刃がついた何かの装置、床には赤い染みが出来ている。
気のせいか、どこか血生臭い。
白い衣を纏った試験官は、フードで顔の全容を見ることができないが、試験官が口を開く。
「貴様ら、さっきの試験で魔術を使っただろ。」
試験官が話しかけたのは竜真にだ。きっと、あの雷鳴剣を見られたのか。
いえ、違います。使えるのは相棒の葵の方です。と本当は言いたいが、言えるはずがない。
この国の禁忌、人に魔術を見せてはならない。非常にまずい。バレてる。
とりあえず、目線を横にずらし、黙秘を貫く。
「どこで、魔術を習得した?貴様、バランタインの者か!」
全く違うが、とりあえず、黙秘を貫く。ふと、葵のほうに目線をやると、あたしは関係ありませ~ん、みたないな雰囲気で口をとがらせながら、そっぽを向いている。おい、魔術が使えるのは、お前だぞ、葵。
試験官は壁に向かって歩き、壁にあった大きな鋸を手にすると、それを竜真に向けて振りかぶった。
もちろん、竜真は察知の能力があるので、さっとその攻撃を躱す。
「ふむ、なるほど、気を利用して、相手の動きを読むという魔術か。」
この男、竜真の察知能力の秘密を読み解いた。ただの者ではない。
試験官は竜真に近づき、竜真の全身を上から下へと、下から上へとくまなく凝視する。
「なるほど、合格だ。」
「えっ。」
竜真は思わず、声が漏れてしまった。それまでの緊張が一瞬で綻んだ。
「合格と言った。君たちには、特別部隊に入隊してもらおう。これから話すことはガーデンの外では話さないと誓え。もし、話を漏らせば、君たちを抹消しなければならない。」
抹消とは、ずいぶんな言葉だ。
「先ほども言ったが、ガーデンには一般に公開していない特殊部隊というのがある。一般兵の中でも特に腕のある者や特殊技能に長けた者を集めた部隊だ。任務は極秘の任務やモルト様、バランタイン家の方や要人の護衛、敵陣への潜伏調査など、多岐にわたる。先ほど、魔術といったが、君たちは魔術のことを知っているようなので、わざわざ説明する必要はないかもしれないが、世の中には、「魔術」と呼ばれる不思議な能力があるのだ。特殊部隊の多くの者がその魔術を使いこなしている。君たちも、魔術を使えるようであるが、使いこなすレベルになってもらわなければ困るので、後ほど訓練を受けてもらうことになるだろう。元々、魔術というのは、・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・のみ入室を許されたエリアが存在する。そこには、古のバランタインの魔術兵たちが蓄積してきた知識の体系、我がバランタイン独自の技能であった魔術に関する情報を集めた魔導図書館なるものも存在する。ぜひ、君たちには・・・
・・・
・・・練度は重要である。まずは、君たちの持つ魔術を確認したい。なので、明日、再度、手合わせをしてもらう。手合わせをするのは、・・・
・・・
・・・」
な、長い。
この人、話がやたらに長い。長いがところどころで、さらっと重要なことを言っていた。そして、葵よ、自分には話しかけられていないといって、立ちながら寝るんじゃない!
それに魔導図書館だと。これは見逃せない。大京国にいたときに葵に魔導書を見せてもらったが、役に立ちそうな魔術が書かれた魔導書など皆無だったのだ。葵も喜ぶだろう。
一応、その日は解散となった。基本的に休みの日以外は、ガーデンに住み込みになる。早速明日から、訓練が始まるそうだ。
「では、失礼します~。」
といって、葵の手を引っ張り部屋を出る。
そのとき、ちらっと、試験官の顔が見えた。
白い衣に、フードを被っているので、よく見えないが、ちらっと見えたその顔は、目はつりあがり、何か邪心なことを考えているのか。少し怖いというような印象だった。
きっと気のせいだろうと、竜真は気に留めずに流す。
なお、葵は、寝起きで寝ぼけていたので、顔にすら気づいていない・・・。