44タリスカーの躾
食事の後は、一度屋根裏の葵の部屋に戻った。
「いいですか、これから、明日の朝までにこの国の言葉を覚えてもらいます。」
タリスカーは魔導書を手に取る。昼間、おばあちゃんが葵に渡した本だ。
「あなたは、この本を読んで独学で身につけてください。あなたであれば、明日までには何となるでしょう。」
続いて、タリスカーは竜真の方を向く。
「問題はあなたです。あなたには魔術の素質が微塵もありません。なので、これから特訓してもらいます。」
「えっ、ちょっと・・・。」
タリスカーは竜真の手を強引に取り、葵の部屋から連行する。出る間際にタリスカーは葵のほうを振り返る。
「いいですか、明日までに自在になるように身につけるのです。それから、多少、隣の部屋から悲鳴とか聞こえても気にしないでください。何でもありませんので。」
「え、えぇ・・・竜真・・・なんだか、頑張ってね。はは。」
「ちょ、葵?」
竜真は、そのままタリスカーに強引に引きずられ、竜真の部屋に投げ入れられた。バタンと部屋の扉が閉じられる。
目の前にはメイド姿のタリスカーが迫ってくる。
「葵は魔術の素質があります。問題ありません。あなたも、魔術は素質はなくとも平均的です。ですが、それでは間に合わないのです。主人様からは明日までにと指示を受けていますので、手荒な手段を取らせていただきます。そちらのベットに横になってください。」
「あ、はい。」
言われるがままに、ベットに横になる竜真。そのすぐに横にタリスカーが座った。ちょっと距離が近い。そして、ほのかに、花の匂いを連想させるような、いい香りが漂う。
タリスカーはそっと手を竜真の太もも辺りに軽く当てがる。その手を徐々に竜真の上半身側に向けて、ゆっくりと、手が触れるか触れないかぐらいのフェザータッチで、太ももから腰、腰からお腹、お腹でおへその周りを一周したあとに胸へと動かす。
どこか情熱的で、官能的なものが感じられる。
「タリスカーさん?」
胸から先は首に触れて、首から先は人差し指で竜真の唇に触れる。そのまま、鼻の頭を通り、目の間を通る。
「ちょ、ちょっとタリスカーさん?」
タリスカーの手の動きは止まらない。そのままおでこに指先が行き、そのまま額を一周するようにタリスカーの指が動く。そして、指先の動きが止まったかと思うと、突然、竜真の頭を鷲掴みにする。
「えっ?」
一瞬の間を置いたあと、
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
全身に強烈な痛み、焼けるような熱さが襲う。
頭の中に、異国の言葉が流れ込む。思考を止めようも、無理やりに流れ込んでくる大量の言葉、大量の流入する情報量に脳が耐えることができず、脳が悲鳴をあげる。
生き地獄だ。
どれだけ時間が経ったか。意識が戻ると、まだ横にタリスカーがいる。
「どうでしょうか。少し、お話しできるようになりましたか?」
「む、無理です・・・。」
「話せるようになりましたね。今、あなたが話しているのはバランタインの言葉です。自然と話せてます。」
「あぁ、そうなんですか。」
あまりの苦痛に自分がバランタインの言葉を話しているかなど、確認する余裕はない。
「無理矢理あなたの頭にこの国の言葉の一部を強引に入れました。問題ないので、続きを行いましょう。」
「えっ、続き?、ちょ、ちょっと待ってください。」
竜真が対抗するもすでにタリスカーの手は、再び、竜真の太もものところに置かれ、フェザータッチのような軽いタッチで上半身に向けてゆっくり動き、それは情熱的で、官能的で、そのまま、首、唇、鼻、目、額と動き、
「ちょ、ちょっと待った!」
竜真が声をだすも、タリスカーはそのまま頭を鷲掴みにする。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その日、葵の隣の部屋からは、幾度となく、男の悲鳴が聞こえたのだとか。