43新たな生活の始まり
「この大馬鹿モンが!!!!」
部屋に連行されるなり、開口一番におばあちゃんから出た言葉これだった。
まさかの怒号にビビり、思わず体がジャンプして後ずさりした。
一方で久しぶりに聞いた大京国の言葉だ。少し安心する。
「ここは異国の地。異国のお金が使えるわけがなかろう!言葉も通じるわけがない!その服は何だ?そんな物を着てれば、周囲から異形で目で見られるわ。とにかく、あんたたちはあたしが金貨五枚で買い取った。うちの店で金貨五枚の仕事はしてもらうからな。」
なぜか、このおばあちゃんは、俺たち二人が海洋を渡ってきたことを知っているような素振りだ。
ふと気になって質問しようと声を出そうとするが、
「あの~・・・。」
「勝手な発言は許さん!」
とても聞いてもらえそうな状況ではなかった。
「まずは、言葉じゃ。そこの娘よ、魔術が使えるのじゃろ。この魔導書を読み、明日までに習得せい!」
おばあちゃんは本棚から本を取り出し、葵に渡した、というより、強引に押し付けた。
「おい、タリスカーはいるか?」
扉が開き、一人の少女が入ってくる。
「はい、ご主人様、こちらに。」
そこにいたのはエプロン姿で銀髪に紅い瞳の少女。背は低めで、窓からそよぐ風が、背中ぐらいまである彼女の綺麗な銀髪を泳がせていた。
「こいつらに部屋を与えてやれ、それと適当な服を見繕ってやるのじゃ。それと、風呂じゃな。臭くてかなわん。それから、適当に飯でも与えて、ここでの禁忌を叩きこんでやるんだ。それと、そこの娘に魔導書を持たせてやったから、明日までに言葉を何とかせい。そこからは、こいつらをまともに使えるように徹底的に叩き込むのだ。」
「かしこまりました。」
タリスカーと呼ばれる少女は、再び扉のほうへ向かうと、再びおばあちゃんが声をかける。
「あぁ、そうだ、タリスカー、手段は問わないぞ。」
「もちろん。心得ております・・・。では、お二人は、こちらへどうぞ。ご案内します。」
気になることがある。おばあちゃんが最後に言った「手段は問わない」という発言、なんだか嫌な予感しかしない。
タリスカーが案内したのは屋根裏だ。
「こちらが、お二人が寝泊まりする部屋になります。」
特に何もない部屋でベッドと空のタンスがあるだけの質素な部屋。
蜘蛛が若干巣を作っているが、まともな寝床があるというだけでも嬉しいものだ。
そのまま、タリスカーは一度、一階まで下りて、風呂場へと案内する。
蛇口と呼ばれる物が据え付けられ、捻ると、壁の管から水が出てくる。
「これはシャワーというものです。この白いのが石鹸です。これを体で泡立てて水で流すと綺麗になります。こちらでお二人は身体の汚れを落としてください・・・。あの、かなり臭いので・・・。」
「あぁ、やっぱり。」
と声を漏らす竜真に、隣で赤くなっている葵。
「はい、かなり。」
とストレートにタリスカーも返答した。
そのあとは一階のレストランに案内される。
準備されたものは食事だった。何の料理かはわからないが、久しぶりのまともな料理だ。
竜真も、葵も見ているだけで涎が止まらない。食事ができるということが、どんなに素晴らしいことか。
「まぁ、食べなさいな。」
タリスカーからは食べて良しの指示が出たので、促されて一口食べる。
「えっ!」「えっ!」
思わず、竜真も葵も言葉を漏らし、目を見合わせる。うまい!食べる手が止まらない。
「よほどお腹がすいていたのね。」
タリスカーは空いているイスに座る。
「まぁ、食べながらでいいので、聞いてちょうだい。この島の禁忌、について説明しておきましょう。」
禁忌という言葉に、竜真も葵もビクッと反応し、一瞬手が止まる。
「まず、一つ目、魔術です。この国では魔術の存在は知られてません。知っているのは一部の軍の人だけ。この国では魔術は軍事機密です。」
意外だ。黒い制服集団に取り込まれ、葵が魔銃を出したときに、周囲の様子が変わったのを思い出す。あれが初めて魔術を見たて驚いた時の反応だろう。
「でも、竜真さんの持っている魔術は例外ですね。目には見えませんからね。」
竜真も葵も、驚きの目でタリスカーの方に向ける。なぜなら、竜真の察知の能力は誰にも話していないのだ。
「ねぇ、ちょっと待って。なんで魔術の・・・。」
葵がタリスカーに質問しようとするが、それを遮るようにタリスカーがまさかの返答を返す。
「黙れ、この下僕どもが!」
空気が凍り付いた。それまでの優しい雰囲気を残しつつも、目は完全に笑ってない。この下賤の者を見るような目つきで、タリスカーは竜真と葵を見つめていた。
あぁ、どうやら、自分たちは何か勘違いをしていたかもしれない。タリスカーという人が部屋やシャワーや食事を用意してくれた。だから、自分たちはタリスカーさんを親切な人だと思い込んでいた。
だが、それは違った。
「あなた方はお金で買われた身です。どうか余計な詮索せぬように。」
それまでのタリスカーに戻った。凄いギャップだ。これはこれとして、別の魅力を感じてしまう。
「二つ目です。この国の中央にバランタイン城、通称、ガーデンと呼ばれる場所があります。ですが、国の北側には行ってはいけません。断崖絶壁で囲まれ、落ちると戻ることはできません。」
行くなと言われると、行きたくなる。先ほどのタリスカーのギャップが凄すぎて、耳に入ってこない。
「三つ目です。この国は、民が国の代表者を選ぶという共和制です。国王は飾りにすぎません。そして、ここ二十年は民から選ばれたモルト様が代表を執政されておりますが、決して、その背後を調べてはいけません。」
「あの、それって、王政と・・・。」
「黙れと言っているだろ、このクズ虫が!」
でた、この優しい雰囲気を残しつつも、目は下賤を見るような目。なんというギャップ萌えなのか。
「そして、四つ目。この店は「宿&レストラン『ブルー』」という名前です。みな親しみをこめて『宿屋ブルー』と呼んでいますが、店長のことは必ずご主人様と呼ぶのです。間違えてもおばあちゃんなど言ってはいけません。死にます。それと、ご主人様のことを調べてはいけません。殺されます。いいですか。死が訪れます。」
「お、おぉ」「え、えぇ」
なんだか、最後の禁忌だけは、なんだか、納得できた気がする。