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刀と魔術 ~ある小さな武士が魔術と出会い、自身の高みを目指す物語~  作者: Hayase
異国の地バランタイン:宿屋ブルーのご主人様との出会い
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40花と音楽と華の街 バランタイン

 ここは、花と音楽と華の街、バランタイン。

 バランタインを特徴づけるのは、花と音楽だ。


 街には至る所に花が植えられ、商店街の通路や店の屋根、建物の壁、島の中央のバラインタイン城へと続く階段から城壁まで隙間もなく花が植えられ、船の集まる港の海上ですら、一面に海水草が淡い桃色の花を咲かす。


 街中では至る所で、音楽が奏でられ、吟遊詩人たちが街中で歌い、レストランのテラスで楽器を演奏する者がいる。あるときは、人々は通りを歩きながら歌を口ずさむ。バランタインで音楽が聞こえない場所などない。


 人々は豊かで、皆笑顔がこぼれ、少なくとも表面上は誰しもがこの国での生活に満足しているように見えた。


 花と音楽は平和の象徴。人々の華やかさは豊かな証、これが花と音楽と華の街と呼ばれる国、ここはバランタイン共和国だ。


 今ここに東の海域からバランタインの交易船がやってくる。バランタインの港でも音楽は流れ、港の海上で咲く海水草の花をゆっくりと書き分けながら、入港する。


 バランタインの交易船は接岸作業を終え、作業員が木箱を積み下ろす作業をしていた。


「うぉ、臭え!」

「『猛獣注意!』って書かれてるが、途中の嵐で死んじまったか?この積荷、蛆がわいているぞ。」

「だめだめだめだ、他の交易品がダメになっちまう。」

「もう、捨てるしかないだろ。そのまま海に捨てちまったらどうだ。」

「そんじゃ、お前、縄かけてくれ。クレーンでそのまま木箱ごと海に捨てるわ。」


 一方、こちらは、竜真と葵である。


 お互い、蛆の湧いた床に二人寝そべっていた。とてつもない悪臭がするが、もはや気にならない。

 昨日の嵐で食料はすべてダメになった。ただ、波に揺られながら身を任せていた。

 次第に波は小さく、天板の隙間からは太陽が光が差し込む。それでも、二人は身体を起こす体力すらない。


 不思議なことに音楽が聞こえる。どこか心地よいクラシックの音楽。

 ついに、幻聴が聞こえ始めた。ついに天国が近づいてきたと竜真は悟っていた。


 突然、木箱が揺れた。今までの波の揺れとは違う。竜真ははっと気が付き、上体をおこした。

 葵も気づいたのか、上体を起こし、互いに小声で話しかける。


(竜真!)

(葵!)


 竜真と葵は思わず抱き合った。


 どれほどこの瞬間を待ったか。互いに身体から悪臭を放つも、気にすることはない。

 ただただ、この劣悪環境から脱出できると本能が悟り、本能のままに抱き合った。


(これで、ここから出れる。)

(えぇ、バランタインに着いたのね。)


 だが、運命とは非常なものである。


 次の瞬間、木箱が落下した。


 抱き合いながらも、何が起きたのかわからない。ズドンと木箱が着水した。


「痛ってぇ」


 板と板とのつなぎ目から、海水が流入する。量が凄ごく、すぐに足の甲が浸る。沈没するのも時間の問題だ。


「ちょっと竜真、やばいよ、腰まで浸かってきた。」

「わかってるって、喋れる体力あったら魔銃でも、別魔術でもなんでもいいから何とかないの。」

「やろうと思ってるけど、全然集中できない。」

「あっ。」


 竜真は腰に帯刀していたことに気づき、即座に抜刀、一振りで木箱の壁を斬った。


「うぉ!」


 一気に木箱の中に海水が入ってくる。


「ちょっと竜真!」


 気が付けば、海の上に浮かんでいた。海面にいるが、海面に浮かんだ花に囲まれ海の上という感じがしない。


「葵、生きてるか~。」

「えぇ、ここよ。なんとか無事よ。」


 人の顔ぐらいの大きさのある花の奥から葵の声が聞こえる。花を掻き分けると、花の影に隠れて葵がいた。


「とりあえず、岸まで泳ぐぞ。」

「えぇ。」


 竜真と葵は、泳いで岸につき砂浜に立った。すぐ隣に港が見え、真正面にはどこまでも続く大海洋だ。

 大海洋にはいくつもの大きなが花が海面に浮び、その奥には大きな黒船が浮かんでいる。

 あの水平線の奥から来たんだと感慨深く思うのだ。


「来てしまったんだな・・・」


 葵も真正面の大海洋を見つめる。葵もびしょ濡れの衣の裾を絞っていた。


「そうね、来てしまったのね。ここがバランタイン。」


 浜辺に木の枝があったので、そこに濡れた衣をかけて乾かした。当然、ふんどし姿になるわけで、竜真はよくても葵はそうはいかない。浜辺の奥に茂みあったので、葵はそこに隠れて木の枝に干していた。


「こっちに来たら魔銃でぶっ殺す。」


 と竜真に言っていたが・・・

 茂みのほうに目を凝らすと、茂みの奥が見えそうで・・・見えない。透視という魔術はないものかと思案する。


「おい!!」


 茂みから葵が大きな声を出してくる。


「こっちの方向を向いてもぶっ殺す!」


 太陽の日差しが強く、意外とすぐに乾いた。日差しは強いが、カラッと乾いているので、そこまで熱くはない。

 塩気でべたべたするのは否めないが、それでもあの劣悪な環境から解放されたのだ。

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