39密航
密航二日目
その後、船は無事出航した。
湾内に面しているせいか、波も穏やか、竜真と葵はひたすら、木箱の中で寝ながら過ごした。順調な航海だ。
だが、問題は起きる。
先ほどから葵が起き上がり、もぞもぞしている。
「どうした?」
「何でもない・・・。」
だが、その後も葵のもぞもぞ行為はエスカレートして行き、顔を赤らめる。しばらくすると、空き瓶を持って木箱内の端の方へと移動する。
「ちょっと、竜真、こっち見ないでよね。」
「えっ」
「だから、こっち見んな!」
「えっ、何で?」
「お花を摘むの!」
「えっ、花なんてないよ。」
「だから、おしっこ!年頃の女の子に言わせんな、バカヤロー!」
バン!と乾いた音と、少し遅れて頬に痛みを感じる。そのまま葵に無理やり木箱の壁側に向かい合わせにされる。
「いい!あたしがいいって言うまでそこを動くなよ。」
そう。一つ目の問題は木箱の中にはトイレがない。どんなに我慢しても出るものは出る。
竜真の背後からはジョロジョロと言う音が聞こえる。
「いいわよ。」
竜真は振り返ると、薄暗くてよく見えないが、液体の入った瓶が木箱の端の方に置かれていた。
「あまり、そっち見んな!」
ということで、木箱の端っこに空き瓶をおいて用を足すことになった。
ちなみに、大のほうはというと、保存食の入れていたツボを一つ早めに中身を空けて、それを木箱の端っこのほうに置き、そこに蓋をしておいた。
葵曰く、あたしはそんなものしませんと言っていたが。
密航三日目
今日も船は順調に航海を進める。
木箱の天板の隙間からはわずかばかりの日が差し込む。今日も晴れているのだろう。
海洋に出たのか波が大きく、当然、船も大きく揺れた。
竜真と葵はというと、顔面蒼白の状態で二人寝そべっていた。
「うっ、おえぇぇっ」
「ちょっと、やめてよね・・・。吐くなら外で・・・うっ、おえっ・・・外でしてよ。」
「外に出たいけど、出られない、うっ、おえっ。」
「ちょっとやめて、わかった、やるなら箱の隅で、うっ、おえっ。」
この日、竜真と葵は一日飯を食べず、生と地獄の境を互いにさまよっていた。
密航四日目
その後も波は静かになることはなく、船は揺れ続けていた。
一日も経過すると、少しは慣れるのか、二人も船酔いからは少し良くなったようだ。
だが、この日は天板の隙間からは雨水が漏れていた。雨だ。
最初はそれほど気にも留めることもなかったが、徐々に天板から漏れる雨水は量を増していく。
ズドーン、と近くで雷が落ちる音が轟く。嵐だ。
船の揺れも激しく、壁を掴んでも身を支えられないほどに揺れ、もはや、船酔いがどうとかいうレベルを超える。
木箱の端に置いた空き瓶は倒れ、床にぶちまかれ、木箱の端のツボですら倒れ、内容物が床にぶち撒かれる。
天板の隙間からの大量の雨水で竜真と葵は水浸し、立っていることすらままならず、船が大きく揺れるたびに、空き瓶やツボの内容物がぶち撒かれた床に転げまわった。
竜真と葵との間に交わされる会話はない。ヒーッとか、うわぁ、とか、もはや、悲鳴のような声しかない。
密航五日目
嵐は収まった。
木箱の天板の隙間からは燦燦と太陽に光が差し込む。気温が暑くなり、中は蒸し風呂状態だ。
昨日の嵐で空き瓶やツボの中身が床にぶち巻かれ、暑さのせいもあって、悪臭が一面に立ち込める。
どこからやってきたか、ハエのような羽虫が木箱内を大量に飛んでいる。
そこに竜真と葵が床に座り込んでいた。
もはや、人としての活力は失い、互いに悪臭を放ち、ただ呆然と一点を見つめているだけの二人。
その周りを大量の羽虫が飛び回っている。
「あたし・・・もう、お嫁にいけない・・・。」
「俺、もう、帰りたい・・・。」
密航六日目
この日も穏やかな一日だった。太陽の光が差し込んでこないので、曇りかもしれないが、暑さは相変わらずであった。木箱の中は羽虫がとびかっていたが、いつのまにか、床にうじうじした幼虫のような生物が現れる。
「ねぇ、竜真、めし・・・。」
「あぁ。」
保存食は先日の嵐でダメになった。無事な保存食もわずかだが残っているので、それを二人で共有しあう。
「ねぇ、あと、何日ぐらいすれば解放されるのかしら・・・。」
「そういえば、聞くの忘れたな・・・。」
竜真と葵は、目がうつろになりながらも、今日も無事に生き残ることができた。
密航七日目
今日は先日ほどではないが嵐だ。波が大きく、船が大きく揺れる。木箱の天板からは容赦なく雨水が滝のように流れ、竜真と葵を水浸しにする。
もはや、竜真と葵は船の揺れに対抗できる力は残っていない。船が大きく揺れれば、それに合わせて、二人も床らを転がり、逆方向の揺れれば、二人も同じ方向に転がる。
部屋の隅に置いてあった瓶とツボも一緒に転がり、またも内容物が床にぶち巻かれる。
「ねぇ、竜真、生きてる??」
「いや、死んでる・・・。」




