表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/142

39密航

 密航二日目

 その後、船は無事出航した。

 湾内に面しているせいか、波も穏やか、竜真と葵はひたすら、木箱の中で寝ながら過ごした。順調な航海だ。


 だが、問題は起きる。


 先ほどから葵が起き上がり、もぞもぞしている。


「どうした?」

「何でもない・・・。」


 だが、その後も葵のもぞもぞ行為はエスカレートして行き、顔を赤らめる。しばらくすると、空き瓶を持って木箱内の端の方へと移動する。


「ちょっと、竜真、こっち見ないでよね。」

「えっ」

「だから、こっち見んな!」

「えっ、何で?」

「お花を摘むの!」

「えっ、花なんてないよ。」

「だから、おしっこ!年頃の女の子に言わせんな、バカヤロー!」


 バン!と乾いた音と、少し遅れて頬に痛みを感じる。そのまま葵に無理やり木箱の壁側に向かい合わせにされる。


「いい!あたしがいいって言うまでそこを動くなよ。」


 そう。一つ目の問題は木箱の中にはトイレがない。どんなに我慢しても出るものは出る。

 竜真の背後からはジョロジョロと言う音が聞こえる。


「いいわよ。」


 竜真は振り返ると、薄暗くてよく見えないが、液体の入った瓶が木箱の端の方に置かれていた。


「あまり、そっち見んな!」


 ということで、木箱の端っこに空き瓶をおいて用を足すことになった。

 ちなみに、大のほうはというと、保存食の入れていたツボを一つ早めに中身を空けて、それを木箱の端っこのほうに置き、そこに蓋をしておいた。


 葵曰く、あたしはそんなものしませんと言っていたが。




 密航三日目

 今日も船は順調に航海を進める。

 木箱の天板の隙間からはわずかばかりの日が差し込む。今日も晴れているのだろう。

 海洋に出たのか波が大きく、当然、船も大きく揺れた。


 竜真と葵はというと、顔面蒼白の状態で二人寝そべっていた。


「うっ、おえぇぇっ」

「ちょっと、やめてよね・・・。吐くなら外で・・・うっ、おえっ・・・外でしてよ。」

「外に出たいけど、出られない、うっ、おえっ。」

「ちょっとやめて、わかった、やるなら箱の隅で、うっ、おえっ。」


 この日、竜真と葵は一日飯を食べず、生と地獄の境を互いにさまよっていた。




 密航四日目

 その後も波は静かになることはなく、船は揺れ続けていた。

 一日も経過すると、少しは慣れるのか、二人も船酔いからは少し良くなったようだ。


 だが、この日は天板の隙間からは雨水が漏れていた。雨だ。

 最初はそれほど気にも留めることもなかったが、徐々に天板から漏れる雨水は量を増していく。


 ズドーン、と近くで雷が落ちる音が轟く。嵐だ。


 船の揺れも激しく、壁を掴んでも身を支えられないほどに揺れ、もはや、船酔いがどうとかいうレベルを超える。

 木箱の端に置いた空き瓶は倒れ、床にぶちまかれ、木箱の端のツボですら倒れ、内容物が床にぶち撒かれる。


 天板の隙間からの大量の雨水で竜真と葵は水浸し、立っていることすらままならず、船が大きく揺れるたびに、空き瓶やツボの内容物がぶち撒かれた床に転げまわった。


 竜真と葵との間に交わされる会話はない。ヒーッとか、うわぁ、とか、もはや、悲鳴のような声しかない。


 密航五日目

 嵐は収まった。

 木箱の天板の隙間からは燦燦と太陽に光が差し込む。気温が暑くなり、中は蒸し風呂状態だ。

 昨日の嵐で空き瓶やツボの中身が床にぶち巻かれ、暑さのせいもあって、悪臭が一面に立ち込める。

 どこからやってきたか、ハエのような羽虫が木箱内を大量に飛んでいる。


 そこに竜真と葵が床に座り込んでいた。

 もはや、人としての活力は失い、互いに悪臭を放ち、ただ呆然と一点を見つめているだけの二人。

 その周りを大量の羽虫が飛び回っている。


「あたし・・・もう、お嫁にいけない・・・。」

「俺、もう、帰りたい・・・。」


 密航六日目

 この日も穏やかな一日だった。太陽の光が差し込んでこないので、曇りかもしれないが、暑さは相変わらずであった。木箱の中は羽虫がとびかっていたが、いつのまにか、床にうじうじした幼虫のような生物が現れる。


「ねぇ、竜真、めし・・・。」

「あぁ。」


 保存食は先日の嵐でダメになった。無事な保存食もわずかだが残っているので、それを二人で共有しあう。


「ねぇ、あと、何日ぐらいすれば解放されるのかしら・・・。」

「そういえば、聞くの忘れたな・・・。」


 竜真と葵は、目がうつろになりながらも、今日も無事に生き残ることができた。


 密航七日目

 今日は先日ほどではないが嵐だ。波が大きく、船が大きく揺れる。木箱の天板からは容赦なく雨水が滝のように流れ、竜真と葵を水浸しにする。


 もはや、竜真と葵は船の揺れに対抗できる力は残っていない。船が大きく揺れれば、それに合わせて、二人も床らを転がり、逆方向の揺れれば、二人も同じ方向に転がる。


 部屋の隅に置いてあった瓶とツボも一緒に転がり、またも内容物が床にぶち巻かれる。


「ねぇ、竜真、生きてる??」

「いや、死んでる・・・。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ