38出航の日
「猛獣注意!近づくな!」
船へ積み込むの荷物は木箱で梱包される。所狭しと積まれた木箱の中に、一つだけこのように書かれた木箱が置かれてあった。
この時代、動物の輸出入は珍しくない。
どこぞの富豪が観賞用に動物を輸出入することはたまにあるので、船員や港の作業員なども手慣れたものだ。
だが、そこに「猛獣注意」と書かれた例は初めてだろう。
港の作業員たちが木箱に縄を取り付け、滑車で船へ積み込んでいく。次々と木箱が船に運び込まれていくが、ついに、問題の猛獣注意の木箱を船に積み込む番となる。
港の作業員は、猛獣注意と書かれた荷札に気づいたか、それをじっと睨むが、いつものように木箱の上に乗り、慣れた手つきで縄を取り付ける。
だが、中身が気になってしまったのか、足元の天板をじっと見てしまった。
木箱の天板は細い板を張り合わせた物で、板と板の間に細い隙間がある。その細い隙間をじっと見つめる作業員。
中は暗くてよく見えないが、ガサガサと物音がしている。身をかがめて、さらに細い隙間へと目を近づけると、その隙間から突然、目が現れた。
「ひえっ!」
「おい、どうした?」
作業員は木箱の天板から飛び降りる。
「猛獣と目があっちまった。くわばらくわばら。」
「何の動物か知らねぇが、猛獣とは怖えなぁ。早く、船に載せちまいな。」
一方、こちらは木箱の中だ。
木箱の中にいたのは、竜真と葵。約一週間分の保存食と水を持ち込み、バレないように息をひそめていた。
竜真と葵が息を潜ませている木箱の天板からもドンと誰かが乗った音がした。そのあとは、ミシミシと音がする。
ついにこの木箱も船に積み込まれるようだ。
しばらくすると、ミシミシという音はなくなった。積み込みが終わったか。天板の板の隙間にじっと覗き込むと・・・天板の上にいる人と目があった。
「ひえぇ!」
葵は竜真の袖を掴んで、こそこそと話しかける
(ちょっと、なにやってるの!じっとしてなさい。)
そんな感じで、密航初日は無事に船に荷積みされた。