36夜道にて
竜真と葵も顔を見合わせた。
天音さんは竜真と葵の二人に向けて丁寧に頭を下げると、そのまま広間の方へ去ってしまった。
流庵も天音さんもいなくなり、今は竜真と葵の二人だけ。
「葵。。。少し、外を歩かないか。」
竜真は葵を連れて道場を出る。
道場を出たところは、何かと商店などが立ち並んで、それなりに人通りが多いが、今は人影はない。
ここのところ、曇りばかりの曇天だったが、珍しく満天の星空が見える。天頂には月が輝いき、月明りで辺りはそれほど暗くはない。虫たちが鳴いている中を、竜真と葵は話をしながら通りを歩いた。
二人の気持ちの焦点はバランタインだろう。近くの島へと渡るのとは全く違う。あの大洋を渡るのだ。まったく未知の世界に踏み入れるのだ。
「で、行くの?バランタイン」
葵は質問は核心を突く質問をストレートにしてくる。もちろん、その質問に否定はできない。異教信仰の罪から逃してもらう代わりの見返りなのだ。
「行かざる得ないだろ?」
「そういうことを聞きたいんじゃないの。それに、あたしは行く、なんて一言も言ってないからね。あのトメとかいうババアは抜きにして、竜真自身はどう思っているわけ?竜真自身は行きたいの?行きたくないの?」
葵は一番聞いてほしくないことをストレートに聞いてくる。返しづらい。
だが、もう迷いはない。先ほどの天音のとの手合わせ、流庵の話を聞いて、心は内心落ち着いていた。
「行こうと思う。武士として、士族の誇りとして、最高の高みを目指したい。」
「そう。」
思い切ったことを聞いてくる割には、葵の返答はあっけなかった。
「あたしさ、竜真について行こうと思うの。あたしね、親がいないでしょ?正直寂しかったのよ。でも、あんたと出会えて良かった。魔術の覚えはまるでだめだけど、魔術の訓練は楽しかったよ。それにあたし自身、もっといろんな魔術を身につけてみたい。ね?どう、世界最強の魔術師、葵、かっこよくない?」
「ぷっ、何言ってるんだ。『世界最強の魔術師』とか自分で言って恥ずかしくないのか?」
「ちょ、まって、今のなし。ていうか、あんただって『武士として、士族の誇りとして、最高の高みを目指したい。』って何言ってるのよ!」
「お、俺は、は、恥ずかしくなんかないぞ。本当にそう思っている。」
「・・・。竜真、、、顔が赤くなってるよ。」
「うるさい!」
二人の会話がしばらく止むことはなかった。