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35大東流庵

 竜真は気を集中させて、全力で察知を行い、天音の攻撃を防戦する。

 だが、そこに誰かが木刀を竜真めがけて放り投げた。


「えっ!」


 その木刀は見事に竜真に的中する。痛いというのもあるが、それよりも、そのことで竜真の気の集中が途切れた。

 その途端、察知の精度に狂いが生じた。


「来る!」


 竜真は天音の攻撃を察知をするが、精度が低い。

 正面からの攻撃こそ防ぐも、頭上、左右、背後と全方位からの連撃を受けて、倒れこみ、あえなく敗退した。


「ちょっと、竜真!」


 その場に倒れこむ竜真に葵が駆け寄る。竜真は打たれた部分を押さえながら起き上がる。


「天音さん、さすがです。」


 天音はその場に木刀を持ったまま立っている。もちろん、無表情のまま。それより木刀を投げ入れられた方を見る。

 そこへ、低く響く声が響いた。


「所詮、魔術の助けをもらったところで、弱きものは弱きものよ。」


 その声で、誰の声であるかすぐにわかった。


 大東一刀流 道主、流庵。


 竜真が道場に入り口のところに目を移すと、流庵が立っていた。その威容はいつも見ても、凄まじい威圧を感じる。天音さんを凍てつく氷壁と表現するのであれば、流庵は聳え立つ岩壁だ。


「戦場では、剣術だけがすべてではない。卑怯だと思うならば、主の技量が足りないのだ。戦場においては勝ったものがすべて。たとえ何をしようと、勝てば勝者、負ければ敗者だ。」


 流庵はゆっくりと竜真と天音のほうに向かって進む。東の猛虎と呼ばれだけあって、歩くだけでも威圧感を感じる。

 だが、先ほど木刀が投げ込まれたときは、そのようなものは感じられなかった。


「ふん、気配を消した程度で、剣先が揺らぐとはな。まだまだひよっこということじゃ。」


 流庵は、竜真の考えていることを見透かしているのだろうか。きっとそれが、察知できなかった理由だろう。


「昔は、剣しかなかった。だから、誰しも、武士であれば、剣術を高めた。だが、時代は変わった。刀に代わるあ新たな武器が出来た。ならば、それこそも凌駕してこそ、真の武ではないか。魔術による剣術も剣術の一つじゃ。」


 流庵は竜真と葵をじろっと見つめる。


「武帝だろうが、バランタインだろうが、この程度で勝てぬようであれば、全く持って修業がたらん。」


 流庵からは武帝という言葉、天音さんが武帝であることを知っていたということか。


「昔であれば、世界というものは、大京国という一国でしかなかった。だが、今は時代変わったのだ。世界というものは、海の向こうにもっと広い世界が広がっていた。ならば、その広い世界で高みを望むのが真の武ではないのか。竜真よ。高みを望むならば、こんな小さな殻からなど、捨てていけ。」


 まるで、流庵はすべてに見透かされているようだ。バランタインへ潜入せよと言われ、迷いが生じていたことを、まさか、流庵に指摘されるとは思ってもなかった。


 だが、流庵の言葉は確実に竜真の心に響く。


 今は時代が変わろうしている。どんなに武術を高めても、それは大京国でしか通用しない。

 さらなる高みを目指すには、大京国を離れ、国の外で武術を高めなければならないのだ。


「竜真といったか、あんたがこの道場の敷居をまたいだ時よりも立派な顔立ちになったじゃねぇか。まぁ、貴様はそこそこにはなったが、天音にも相手にされないようじゃ、まだまだヒヨッコよ。世界はこやつよりも上がいるもんだ。心してかかるんだな。」


 いつの間にか、竜真は真剣な顔立ちになっていたが、そこを流庵に指摘されて、顔を赤らめる。

 流庵は続けて、天音に向けて話す。


「夜に道場が騒がしいと思ったが、何を考えているんだ、天音よ。お主を同門にが入れたのが、数年前のこと。面白い女がいたと思って同門にいれたが、まったく心情が読めないと来た。いったい主は何を考えている・・・。まぁ、儂には関係のないこと。後悔のないように、好きにするがよい。」


 流庵はそこで、踵を返す。道場の入り口から見える隣の家の屋根のあたりに、いつの間にか月が昇っている。あたりは静かで、虫たちが鳴く音だけが響いている。


 流庵は話し終わると、赤黒い威圧の塊は自然と消えて、流庵は道場から去った。

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