32気づけば古京城
竜真が目を覚ますと、布団の中にいた。胸に痛みを感じる。
布団から出て、自分の体を見ると、包帯が巻かれていた。誰かが手当してくれたのか。
起き上がり、戸をあけて部屋を出ると、外からの朝日が差し込み、まぶしい。
部屋を出た先は、見事な日本庭園だった。大きな池に、鯉が泳ぎ、亀が日向ぼっこをしている。
立派な灯籠が立ち並び、立派な松が植えられている。庭先には赤色の縁台と傘が建てられ、貴族のような服を着た女性たちがお茶を嗜んでいた。
道場にも似たような庭園はあるが、こちらのほうが広く立派だ
「お目覚めでしょうか?」
そこにいたのは古京城の下女だ。キレイな身なりで華美な服装から察するに、上級職の下女だろうか。
「す、すいません。気を失っていたようで。ここはどこでしょうか?」
「こちらは古京城の奥間でございます。」
「ふぇっ!」
古京城は、大京国の将軍様の鎮座するお城だ。一般人が将軍様の住む古京城に入るなどあり得ないの。
しかも、奥間というのは、古京城の最奥、選ばれた者しか立ち入ることができない場所だ。
「お連れ様と天音様がお待ちなっております。」
お連れ様?天音さん?
竜真は昨日の起きたことを思い出そうとする。確か、突然、黒装束の人たちに襲われて、敵の頭のような人に・・・そうだ、胸を刺された。
竜真は急いで胸を確認する。包帯は巻かれているが、目立った傷は見当たらない。
「広間までご案内いたします。」
「わ、わかりました。 」
下女に連れられて、廊下を進む。古京城など一般人が入ることなど許されない。
金箔が散りばめられた屏風に虎が描かれ、天井には今にも飛び出しそうな竜が描かれている。
さすが、古京城、至る所に装飾が散りばめられ、道場の屋敷とは段違いだった。
下女は廊下を急に曲がる。人一人ぐらいが通れるような狭い廊下だが、装飾も一切なく、行き止まりになる。
「えっ。」
思わず、声が出てしまったが、下女がフォローする。
「こちらです。」
そういって、下女が手で壁を押すと、壁が回転し、隠し部屋が現れた。
下女が案内した部屋は、光薄暗く行燈の光で照らされた部屋だった。そこに、葵が座り、向いに天音さんがいた。
「竜真様を、お連れ致しました。」
「竜真、こっちよ。」
葵に促され、隣に座るが、どことなく、怒っているような感じがする。とても、気軽に話せる雰囲気ではない。
「・・・。」
誰も声を発する様子はない。先ほどの下女が現れては、気遣いなのか、お茶を出してくれた。
葵は、天音さんを睨むといった感じだろうか。天音さんは相変わらずの無表情だ。
突然、ドン!葵が机を叩いた。
「で、どうなの?あの黒装束の集団は。なぜあたし達が襲われた理由、あんたたちと黒装束集団との関係、なぜあんたはあたしを助けたのか、ぜ~んぶ、わかるように説明してよね。」
「・・・。」
天音は無表情のまま、下女の出したお茶をズズッと飲むとボソッと声を漏らす。
「隠密集団、武帝 隠密の才蔵。」
「武帝?あれが?」
武帝、大京国を牛耳る実質的な部隊だが、実際のところ、どうなっているかは明らかになっていない。
そのためか、庶民にとって武帝とは神のような人知を超えた想像上の存在となっていた。
そこへと、ガラガラと音を立てて扉の開く音がした。
そこに現れたのは、腰の曲がった、白髪の老婆だ。
「トメ様・・・。」
と天音が声を漏らすのだ。