29ありえない現実
「ふむ。」
男は一言、言葉を放つと周りの様子を見る。
「これが魔術を身につけた者の力か。話にならん・・・。これなら、魔導の力に頼らずとも、我ら隠密で十分。」
「ちょっと、あんた何者よ!名前ぐらい名乗ったらどうなの。」
男は興味なさそうに、聞く耳を持たずに踵を返して、後ろを振り向き、そのまま引き返す。
「お前らが知る必要はない・・・。とっとと片付けろ。」
「ちょっと待ちなさいよ!」
葵は声を張り上げるが、それと同時に、周りの敵たちが同時に攻撃をしかける。前後左右隙がない。
竜真が察知で攻撃を予測し、一人目、二人目と次々と攻撃を剣で弾く。
葵は、魔銃を同時連射、目の前を迫りくる敵に見事に命中させる。
葵はさらに追撃の魔銃を放つ。
魔銃の弾丸は、敵の目前で急に軌道を変える。軌道を変えた弾丸は、敵の合間を見事にすり抜け、弾道は敵の頭と思われる男の背後を捕らえた。
頭と思われる男は、刀を抜き、振り向きざまに、フン!と言っては、魔銃の弾丸を切り裂いた。
魔銃の弾丸は、人の目には見えないほど高速だ。弾丸を切り裂いた時点で、相手の技量が推し量れる。
だが、敵の頭に予想外だったは、全く同じ軌道で二発目の魔銃の弾丸が放たれていたのだ。
弾丸を切り裂き、一発目の弾丸は消失したが、背後に隠れた二発目の弾丸が、男の目前に迫る。
男は体を翻し、躱すが、躱し切れず、肩の部分をかすった。さらに、そこへ、まるで避けることを予測していたかのように、三発目の魔銃の弾丸が放たれ、避けきれず、脇腹の部分をかする。
「クソが!」
かすった肩の部分と脇腹の部分からわずかに血が滲んだ。
「所詮、雑魚が、小癪な。」
敵の頭は捨て台詞のように吐くが、なおも、葵が対抗する。
「だから、あんたち、一体何なのよ!うちら、あんた達と恨みを買ったような覚えはないのだけど。」
「黙れ、魔導の異教徒ども。貴様ら、魔導の力に、我ら隠密が負けるわけがない!」
敵の頭は、言うと同時に刀を抜き、居合を抜く。
「危ない!!」
竜真は察知で感知したのか、叫ぶ同時に、葵の頭を掴んで、身を低くする。
その刹那の後に、頭の居合と同時に、真空波ともいうのか、辺り一面に空気の白く薄い層が一瞬、現れては消えた。直後、周囲の木々が倒れ、ズドーンという音がする。
敵の頭は、そのまま葵へと攻撃を続けた。
キーンと音がして刀と刀がぶつかり合う。攻撃を察知した竜真が、葵をかばったのだ。
だが、攻撃はそれで終わりではない。次は消えたかと思うと、瞬時に移動し、葵の背後を捕らえた。
そこを刀で斬撃を加えようとするが、間一髪、竜真が入りそれを防ぐ。
敵の頭は完全に葵を狙っている。
葵は何もできない。あまりにも敵に攻撃が早く、竜真の察知の能力に頼るしかない。
「チッ」
葵は舌打ちをするが、状況は変わらない。葵の周りで剣戟の撃ち合う音が盛んに聞こえるが、中には入れない。
何もできず、様子を見守るしかできない自分が悔しい。竜真に守られるだけの自分がもどかしい。
だが、時に運命というのは、悲惨ないたずらをするものだ。
偶然、突風が吹いた。突風に煽られ、地面の落ち葉が舞い上がり、竜真に向けて舞いこむ。
竜真は完璧に察知し、敵の攻撃を予知した。だが、舞い込んだ落ち葉が邪魔をし、動きが遅れたのだ。
それが、決定打となった。
消えたと思った敵は葵の真正面に立ち、葵に向けて剣を突く。
竜真は当然のごとく、その攻撃を察知していたが、行動が遅れた。間に合わない。
そこで、竜真は、自身の体で葵を押しのけた。葵は竜真の体に押しのけられて地面に倒れこみ、攻撃を避けることが出来た。だが、代わりとなった竜真は・・・・・・
そこに敵の刀が・・・
竜真の体を・・・
・・・貫いた。