28突然の襲撃
続いて第三撃目も来るが、気を集中させた竜真の察知でかわすことができた。
その後も、第四撃、第五撃と攻撃を受けるが、竜真の察知で何とか回避する。
暗くてよく見えず、防戦一方。何とか攻撃に転じたいが、暗くて、相手がどこにいるのかわからない。
周囲の木々の間の暗闇から次々と攻撃を受けるも、察知の能力で、かろうじて攻撃を避けるだけ。
「はぁ、はぁ・・・。」
竜真も息を切らしていた。
このままでは、埒があかないし、防戦一方のまま。このままではやられてしまうのも時間の問題だ。
葵は何かの魔術を発動させたのか、手が徐々に光を帯び始める。
その光は徐々に増し、まぶしいほどに、光を発する。そのまぶしいほどの光は葵の手を離れ、頭上へと浮かぶ。
まるで太陽、薄暗い森の中が、昼間の明るさになった。
周囲を明るく照らす魔術、「ルミナンス」だ。バランタインの人から渡された魔導書に書かれていた生活便利グッズ的な魔術だ。だが、意外と役に立つ。
周囲の木々が明るく照らされると、いかに窮地の状況であるかわかった。
木々の上には、何人もの黒装束を纏った、忍風の者が何人もいた。四方を取り囲まれ、逃げ道がない。
何者か不明だが、攻撃を受けた状態からして敵ということは間違いない。
「竜真、あいつら、あんたの友人?」
「まさか、葵さんの知り合いでは?」
「冗談でしょ。」
葵は、竜真と背中合わせになり、前後を固め、敵に囲まれた状態に対して防御を取る。
「去年の脱獄以来ですね。葵さん、魔銃いけます?」
「えぇ、もちろん。あんたの剣術も道場で修業したんでしょ。足引っ張らないでよね。接近戦は任せるわよ。」
葵の手は淡い光が灯り、魔銃の準備は完了、竜真も抜刀し、戦闘準備は完了だ。
葵が先陣を切る。目の前の木に立っている敵に、突き進みながら、魔銃を連発する。
一発目は敵の真正面を捕らえるが、避けられる。高速の弾丸を避けたこと自体凄いが、二発目がグインと軌道を変えて、避けた先へと曲がる。
だが、瞬間移動をしたかのように敵が視界から消えた。
そこへ、別の敵が葵の背後を捕らえ、後ろから刃が迫った。葵はそれはわかっていたかのように、木の幹を利用して、三角飛びのように高く飛んでかわす。そのまま一回転しながら、背面のまま、背後の敵へ魔銃を連発するが、それも見事に躱される。
そこへ空中にいる葵を狙って別の敵が地上から刀を振り上げた。その刃は空中で滞空中の葵の頭を確実に捕らえた。
が、キーン!というと共に刃がはじかれる。察知で敵の行動を予測した竜真が、割って入ったのだ。
「そのまま、空中真上!」
竜真は叫んだ。その声を頼りに、葵は自身の真上に向けて魔銃を放つ。そこには、空中真上の死角から狙う敵がまさに狙うところだった。
紙一重で魔銃が命中し、間一髪で敵の攻撃を回避するとともに、敵を一名撃破する。
葵は地面に着地し、再度、竜真と背中合わせになり、前後左右を警戒する。少し、遅れてドサッという音がして、先ほどの撃破した敵が空中から落下する。
昨年の牢屋敷からの脱獄とは、レベルが違う。明らかに敵の練度が高い。
依然と多数の敵に囲まれたまま。そこに、一人の敵が突撃してくる。とっさに竜真が防戦し攻撃を防ぐ。
そのまま、察知能力で、二人目が攻撃を予見し、二人目の攻撃も防ぐ。さらに、察知能力で三人目の攻撃を予測する。
「後ろ、空中!」
竜真の叫びで葵は魔銃を放つ。確かにそこに敵はいた。が、空中から瞬時に消える。
「次、右、側面!」
竜真の声のままに魔銃を放つ葵。
ドサッ。
敵の倒れる音が聞こえた。もはや、狙いを定めるというより、竜真の言葉のまま、葵は魔銃を放つ状態。
だが、休む間もなく、葵の目の前を刃がせまる。キーン!という音がして、竜真が刃を弾いた。
「背後に二人!右から敵一人」
休む間がない。葵は背後に向けて魔銃を放つ。右側から突進してくる敵の攻撃をかわし、敵の方へ高く飛ぶ。
葵の放った魔銃は一人目の敵にはかわされたが、その状態から横に飛びながら背後二人目に二発、一発はかわされたが、二発目の軌道を直角に曲げて、二人目に命中。
さらに、背後に向けて魔銃を二発。魔銃は軌道を変えながらも敵を確実に捕らえた。ドサッ、ドサッ、と人が倒れる音が二回聞こえたが、そちらを振り向く余裕はない。
再度、竜真と背を合わせて、守りに入る。二対敵多数、圧倒的な不利な状態、敵一人一人が練度が高い。
「ふぅーっ。」
葵は深呼吸をした。このまま戦闘を続けても、限界が来る。打開策を模索し、周囲を見渡すも、一面敵だらけ。
最良の策といえば、逃走、だが、地面に立つ敵、木の上に立つ敵、地上も空中も包囲され、隙がない。
「待った。」
そこで、竜真が何かを察知したようだ。
「誰かがこっちに来る。」
葵の魔術、ルミナンスで明るくなったが、それでも森の奥は暗い。その闇から足音が聞こえる。
ザッ、 ザッ、 ザッ、 ザッ、 ザッ、
落ち葉を踏むような足音は、ゆっくりとした足取りで、近づく。
薄暗い森の奥から現れた、その男は周囲の敵と同じ黒装束を纏っていた。
肉付きの良さが黒い装束を着ていても分かった。周りの敵とは雰囲気が物々しい。こいつが頭か。