27忍び寄る気配
周囲は深い森、薄暗い洋館だが、時たま木々の間から日差しが差し込み、二階の壊れた窓まで届く。
「どうした?我が弟子よ。腹でも減ったのか?」
もうすぐお昼の時間だ。
「いや、なにか気配みたいなものを感じたような・・・。」
竜真の得意技「察知」だ。ちゃんを気を使った技で、立派な魔術の一つだ。
最初は、ビビりの竜真が幽霊とかを怖がっているように見えたが、違うようだった。
極めることで相手の動き、攻撃を予測することすらでき、その精度は日に日に向上している。
「察知」は魔導書には書かれていない。「気」の性質として、周囲の気配に敏感になる、と書かれていた程度だ。
気を錬成する練習をしていた中で、竜真が身に着けたオリジナルの魔術だ。
「察知」は便利な魔術だ。特に剣術をこなす竜真には、相手の動きを予見するという点では、素晴らしい魔術だが、何せ、目に見えない魔術で、葵の魔銃と比べると見劣りする。
だからこそ、目見える魔術をと、火、水などを生み出す魔術を特訓しているが、成果はいまいちだ。
「う~ん、この気配は動物かな~?」
竜真の察知はかなり研ぎすまされている。
気配でそれが人か、動物か、距離や、位置まで特定できる。
ついでに、竜真の察知で、今までにない気配を察知したというので、行ってみたら、まさかの白骨化した死体をみつけたという、珍事件まであった。もはや、生命体にあらず、霊体まで検知できるに至った。
「まさかだけど、こないだみたいに、死体なんか見つけないでよね。あのときは、本当にびっくりしたんだから・・・。それよりも、一度切り上げてお昼でもどう?今日は綺麗なお姉さんが手作りのお弁当持ってきたわよ。」
ミカンと弁当を包んだ風呂敷を竜真に見せつける。
もちろん、綺麗なお姉さんとは自分のこと。なお、ミカンは冬に実る果樹だが、なぜか、葵の手元には季節を問わずミカンがあった。
こんな光景が、これが週に二日間、慣習となった。
洋館は薄暗くて薄気味悪いが、気を集中するにはいい場所だ。
午前中は気を集中させる基礎練習だが、午後からは実践に向け、葵が指導のもと、鍛錬した気を指の先から、体の外へ放出する訓練をする。
「いい、指先に気を集中させて。そして、それを指の外に向けて気を集中させるの。」
竜真の指先に淡い光が灯る。だが、その淡い光は指先を離れることなく、腕の方へ戻ってしまう。
「違う!」
といって、竜真の背中を思いっきり叩く葵。
「師匠、ちょ、ちょっと、無理ですよ。どうやって体の外に出すの??」
大体、そんなやり取りだ。葵には、わかりきった動作だが、なかなか竜真では出来なかった。
なので、毎回毎回、竜真は葵に叩かれているのだ。
そんなこんなで、一日の魔術の修練を終える。もう、日が地に沈みかけている時間だ。
「まぁ、今日はこんなもんね。そろそろ時間かしら。夕飯はどうする?うちに来る?」
「もちろん、行きますよ。」
魔術の修練の日は葵のアジトに竜真を呼んで、夕飯をごちそうしていた。元々は魔導書の講義のためだったが、いつの間にか、夕飯の時間になってしまった。
夕方になり、一層暗くなった洋館を二人で並んで外に出ようとしたが、ここで竜真が足を止めた。
「あれ?」
竜真が何かの違和感が気が付いた。竜真は察知の技能があるが、つい最近、何者にかに、尾行されていた事例がったのでいつもよりも、敏感だ。ここでも何者かの気配を察知した。
「どうしたの?誰かいる?」
「う~ん、誰かに見張られているような気がしたんだけどな。」
竜真は、後ろを振り返るが、誰も見当たらない。
「気のせいじゃないの?」
竜真の察知の能力は研ぎ澄まされている。最近は外れなんてないはずなのだ。
「気のせいならいいんだけど。」
竜真は慎重に後ろを見ながらも、再び葵と歩調を合わせて歩きはじめた。だが、
「!!!、伏せて!」
竜真は突然叫ぶと同時に、葵の頭を掴み無理やり姿勢低くした。
すると、すぐ頭上を刃が通過する。
間一髪だ。
周りは深い森、かろうじて明るさが保たれているが、暗くてよく見えない。
だが、付近に誰かいる。誰かがこちらへと刀を向けたのだ。
「こっち!」
と言って、竜真が葵の腕を掴み、引き寄ると、再びわきを刃かすめ、紙一重で躱すも、葵の浴衣の袖が切れた。