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26葵の過去と今

 葵は生まれも育ちも、古京だ。

 小さな商人の家に生まれ、親の仕事を見ながら育った。農村で野菜を仕入れ、古京で売る。


 決して大金を稼げるわけではないが、日々の生活は十分だった。

 当時から両親は病弱で、数年前に亡くなったが、今でも農家の人、市場の人とは顔見知りで、葵をかわいがってくれる。


 農村と古京の往来を数日おきに繰り返すのがいつもの習慣だ。嵐で日程がずれることはあっても、ほぼのその習慣からずれることはなかったが、唯一、その習慣が休止になったときがあった。


 黒船の来航だ。


 古京中が大騒ぎにになり、市場で物を売るどころではなかった。根拠のない噂が飛び交い、異国人が攻めてきたとか、いろんな噂が飛び交って、古京中が混乱した。


 しばらくすると、港町の一角に、バランタインの人たちが館を建て始めた。

 通称、異人街と呼ばれていたが、そんなときだったか、もしかすると、何か異国の物で高値で売れそうなものはないと、異人街を出入りしては、何かと物色していた。


 結果として、珍しいものは沢山あった。ペンに地球儀、眼鏡、望遠鏡、どれも珍しいものばかり。

 だが、バランタイン側も交易が目的だ。売ってはくれるが、どれも吹っ掛けたような値段で町娘の商人が仕入れできる値段ではなかった。


 ある日の夕方、異人街での仕入れに失望し、ふと異人街の先にある桟橋を歩いていた。そこで、黄昏ようとしたのだが、そこで葵は見てしまった。


 盗人だ。


 桟橋にはバランタイン黒船が停泊していた。逃げようとする盗人と、それを追いかけるバランタインの人。

 盗人の逃げ勝ちと思えたが、そこで目を疑った。

 光の矢が突然現れ、盗人の脇をかすめた。光の矢は盗人の逃亡を止めるまでの効力はなかったが、葵が進路に立ちはだかり、足をひっかけて、転ばせ、とっ捕まえた。


 これが葵と魔術の初めての出会いだ。異人街で仕入れでは出来なかったが、それ以上に凄いものを見つけたと、葵は心を踊らした。


 言葉は通じぬものの、ジェスチャーで矢を射る様子を表現し、何とか魔術を教えてもらおうとした。

 最初、まったく相手にされなかったが、毎日、毎日、異人街に繰り出ては、何度も魔術を教えてくれとせがんだ。

 雨の日も、嵐の日もしつこいぐらいに、ストーカーと思われるぐらいにせがんだ。だって、あんな凄いものを見せられたら、どうやってやるのか知りたくなる。


 ある日で同じように異人街に行ったところ、いつもとは違う人がいた。他とは明らかに上級感がでており、青いローブのようなものを纏っていた。五十ぐらいのおじさんで、少し髭を生やしている。


「君が、うわさの最近この辺りでうろついているという少女か。」 


 他のバランタインの人と違い、言葉が通じた。


「君が求めているものは、バランタインの秘術なんじゃ。教えることはできんのじゃよ。」


 向こうから一方的に断わられるが、そこで引き下がる葵ではなかった。


「それなら教えはいらない。代わりにいらない本をください。」


 葵は、何度も何度も異人街に通い詰める中で、魔導書、魔術の本があることは知っていた。中にはボロボロで捨てられる魔導書があることも知っていた。


「ふむ、本ねぇ。」


 葵は、ここでは引けぬと、まだ、少女ながらに膨らみかけの胸をおじさんに当てつけ、手を絡ませて、あからさまに色っぽい声で誘惑する。


「ねぇぇ、おじさんってぇ、この艦隊でぇ、一番偉い人なんでしょぉ。すぅごいですねぇ。」

「あぁ、すごいだろ、だが、我々の国元ははもっとすごいぞぉ。」

「そうなんですかぁ!、さすがですねぇ、知らなかったわぁ。すごいですねぇ。 ・・・・」 

「・・・」


 そんなやり取りがしばらく続くこと、数分、いらない魔導書であればと、不要な魔導書を手に入れた。

 世の中には、おじさんを落とす「さ、し、す、せ、そ」というものがあるのだが、葵は少女ながらに、それを大人の色っぽい女性顔負けに駆使して、魔術の本を手に入れたのだ。

 若干、おじさんがロリコ●趣味というのは多少ながらにあったのかも知れない。


 それからは、バランタインの言葉の勉強の日々だった。何せ、全く違う言語で書かれている。毎日、異人街に出向いき、言葉を勉強した。


 日々、商人として稼ぎしながら、暇を見つけては、魔術の修練に励んだ。

 どんなに忙しいときでも、一日にも欠かすことなく、修練に励んだ。もらった本の中で最も高度そうな魔術が魔銃と言われる魔術だったが、ついに魔銃を身に着けるまで至った。


 そんな、ある日、天気がいいので、たまには外で修業しようと、田んぼのど真ん中で練習していた。周りには何もなく、遮るものはない。街道からも一目瞭然の場所で、練習していたのが悪かった。


 魔銃という、見たこともない現象を見た通行人が通報し、異端者として捕縛された。

 当たり前といえば、当たり前だ。


 こうして、牢屋敷に投獄され、どうしようかと考えていたところへ、竜真が現れたのだ。


 その後、一緒に脱獄し、竜真を弟子にし、今に至るわけで、今日も竜真の魔術の特訓に、付き合っていた。





 例の洋館の一階で、気を集中している竜真。それを葵は壊れかけた二階のテラスから好物のミカンを頬張りながら眺める。

 熱心に取り組む竜真を見て、葵は少しだけ微笑むのだ。


 竜真には、このように説明はしたが・・・実は少し見栄を張っていた。

 嘘とは言わないが、一部は本当のことを隠した。


 一つは、竜真を弟子にした理由。

 葵は寂しかった。いつもは両親がいたが、他界した。

 竜真と会ったときも、脱獄での協力関係という一時的な関係のつもりだった。

 けども、その矢先、竜真から『弟子にしてください』だった。正直嬉しかった。

 見栄を張って、上から目線で弟子にしたが、こうして、魔術の練習で一緒にいることが、正直なところ、嬉しかったのだ。

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