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24道場での日々 

 竜真が大東道場に入門して一年が経過した。葵とは魔術修行も進めており剣術修行と両立していた。

 武魔両道だ。


 剣術の方は、地元の道場で皆伝を取得していたこともあり、素質はあった。他の門下生を次々と凌いだ。

 そして、今や中伝の位だ。大東道場では、皆伝の者が三人、目録が十人、中伝が竜真を含む二十人とあり、わずか一年にして、道場の上位層へ達した。


 天音さんは道場に咲く高嶺の花だ。道場にいるのは基本的に汗臭い男ども。まれに女子も数人いるが、美しさといえば、天音さんだ。

 しかも、皆伝の位、道場内で一番強い。しかも、無表情で凛とした姿は男どもの好感を買って、道場内どころか、近隣の人たちまで皆、首ったけだった。


 竜真は買い出しという雑用を任せられ、そんな高嶺の花の天音さんと、毎日一緒に買い出しに出かけていた。

 周りからの妬みの視線が凄まじかったが、二人きりで買い物というのもなかなかつらい。何せ天音さんは、何もしゃべらない。


 さて、今日も訓練を終えて、天音さんと恒例の買い出しだ。

 竜真は天音さんと並らび町中へいつものように繰り出すが、二人の間に言葉はない。もう、慣れた。

 これが、竜真の日常だ。


 だが、その日だけは、いつもと違った。ある瞬間にそれは起きた。


 背後に、悪寒が稲妻のごとく走った。例の竜真の特殊技能が働いた。修業のおかげで、竜真の特殊技能は一年前に比べると研ぎすまれていた。

 この何とも言えない、背後全体に感じる感覚、これは、誰かにじっと監視されているときの感覚だ。

 おそらく、人混みにまぎれて何者かが、尾行している。


 竜真は、とっさに天音さんの手をつかんだ。人混みの多い大通りから、細い路地へ引き込み、そのまま手をつないでしばらく歩く。

 背後の監視されている感覚は途切れたが、再び、監視される感覚を感じる。

 路地の入り口付近に尾行者がまだいる。

 竜真は天音さんの手を掴んだまま走り、適当に走って進むこと、数分。長屋街の広場に行きつき、一度、そこで息を整える。


 再度、竜真の特殊技能で尾行者を確認するが・・・うん、今回はうまく撒けた。


 ふー、竜真は深呼吸をする。


「あの、竜真さん・・・。」


 珍しく、天音さんが竜真に声をかけた。ふと、天音さんのほうを振り返ると、いつもの無表情ながら、顔を赤らめていた。そこで、ふと、竜真気づいた。ずっと天音さんの手を握りっぱなしだった。


「す、すいません。」


 と言って、竜真は手をひっこめるが、天音さんは無表情で真面目に話を続ける。


「あの、尾行に気づいたのであれば、無理に撒くと、相手に気づいていることをばらすことになります。むしろ、気づかないふりをして、普段と違う行動をしたほうが相手を混乱させることができ、相手の正体を調べる時間を稼ぐことができます。」


 なんと、天音さんも気づいていた。それどころか、正しい対処方法まで指摘してくれた。

 さすがというべきか。確かに、誰が尾行していたのか、気になるが、知るすべを失ってしまった。

 至極、真っ当な指摘だ。


「天音さん、勉強になります。ありがとうございます。」

「尾行に心当たりありますか。」


 竜真自身、誰かに尾行される理由は思い当たらない・・・。いや、一つある。

 一年過ぎて忘れていたが、例の脱獄関係だろうか。

 まさかとは思うが、少し、心臓がバクバクし始めた。とはいえ、天音さんの前でとても、例の件を言えるわけがない。


「い、いえ・・・。」

「そう・・・・・・一応、しばらくは、外出を控えて様子を見てください。」

「はい。」


 あの事件からというもの、葵は、そんなの大丈夫だ、と言ってたが、実際に何もなかった。

 何せ、あの下手くそな似顔絵だ。立札に書かるのを見るほうが恥ずかしい。


 だが、尾行という事実があった今、あの時の恐怖がよみがえる。

 万一捕まれば、間違いなく死罪だ。


 誰が尾行したかわからない今、慎重になるべき、と思いながらも、買出しに戻るのだ。

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