21指名手配犯
天音さんから買い出しのメモをもらい、天音さんと二人で町へ出かける。脱獄事件の件が気になるので、下を向いて歩く竜真。
天音さんはというと、相変わらず無表示、無言のまま出かけていく。
あまりの無言さに気まずいので、何か考えて竜真は話かけてみる。
「い、いい天気ですよね。」
竜真は下を向きながら、歩いているので、天気など見てなかったが、天音さんは頷くだけ。
「天音さん、昨日は凄かったですね。とても勝てそうになかったです。」
こちらの質問も天音さんは頷くだけ。これでは埒があかないと、質問をYes、Noの二択ではなく、記述方式の質問に変えてみた。
「天音さんは、いつ頃から、この道場にいるんですか?」
「・・・覚えてない・・・。」
初めて聞いた、天音さんの声。思ったより低い声だ。竜真は続けて質問する。
「なんで、そんなに強いのに、掃除とか、食事の準備とかしているのですか?」
「・・・自分で望んだから。」
「天音さんは、いま、いくつなんですか。」
「・・・二十ぐらい。」
「天音さんって、なんでそんなに強いんですか。」
「知らない・・・。」
まるで、犯罪者への尋問だ。一応、回答はもらったが、会話になってない。竜真も質問ネタがなくなり、回答も、「知らない」という回答が増えてきた。
竜真からの質問も少なくなり、結局、最後には無言で二人で歩くようになった。なんとも気まずい雰囲気だが、本人が気にしてないので、気にしないことにした。
そのあと、買いだしで味噌などの備蓄品を購入する。いつも利用している商店なのだろうか。
「はいよ、天音ちゃん。味噌一升ね。」
店主は気前よく、話しかけるが、天音さんはいつもののように丁寧にお辞儀するだけだった。さすがに重そうなので、竜真が持とうとすると、
「お、そっちは新入りかい?」
と声をかけられる。竜真は、
「はい、竜真といいます。よろしくお願いいたします。」
と答えたが、それがまずかった。ちょうど付近に、役人がいたのだ。
そう、竜真は先日、脱獄をしたのだ。
そして、町の立て札に下手くそであれ、似顔絵が書かれ指名手配されている。
「う~ん、竜真だとぉ?、そこの者よ、ちょっと待て。」
ということ声がして、役人らしい人物が二人ほど来た。懐から、あの汚い似顔絵を出し、竜真の顔と見比べ始めた。この瞬間、竜真は、心臓がバクバクと波打つ鼓動が耳元で聞こえるほどに、緊張する。
「まさか、貴様、こないだ、脱獄を企て、大京国に叛逆をなした竜・・・」
そう言いかけた途中で、天音さんが腕をだして、竜真をかばった。ほとんど、しゃべらない天音さんだが、力強い声で言い返す。
「お役人様、大東道場の天音と申します。うちの門下が何か失礼なことでもしたでしょうか。似顔絵とはだいぶ違っているようですが。」
普段、全く喋らない天音さんのまさかの対応にびっくりする竜真。
「こ、これは、流庵先生の門下の者でしたか。大変失礼しました。先日、異教徒の罪で脱獄したものが『竜真』と呼ばれ、似顔絵が似ていたもので。」
「うちの門下に脱獄囚がいるとでも。」
「いえ、とんでもございません。ちょっとリュウマと・・・」
「何か・・・。」
「いえ、失礼いたしました。こちらの勘違いでした。」
役人はそそくさと去っていた。助かった。九死に一生を得た気分だ。天音さんがいなかったら、牢獄に逆戻りだった。
普段、まさか、天音さんがこんな対応するとは、思ってもなかった。正直、カッコいいと思ってしまう竜真だ。
その日の買い出しの帰り道、夕暮れの川の土手を歩きながら、突然、珍しく天音さんから声をかけられた。川に反射する夕日がまぶしい。
「竜真さん・・・もし、何かあったら、大東道場の名と、あたしの天音の名を出しなさい。」
脱獄のことは、大東道場の者へ一言も話していない。当然だがバレれば牢獄行きだが、その天音さんの一言は、竜真が密かに何かをやらかしているのを知っているようにも、受け止めることができた。
そんなはずないと、竜真は思うのだ。
何かを知っているのですかと、聞くこともできるが、それは、後ろめたいことをしていますと、自白しているようなものだ。
とても聞ける状況ではないが、多分、気のせいだろうと、思い込むのだ。




