20道場破りとの対決
竜真が、朝食を終え、柚多の指導のもと、早速、特訓を開始しようとしたところで、それはやってきた。
「頼もう!」
と大きな声が道場内に響き渡る。
「ほら、朝言ったでしょ。必ず一人か二人はやってくるんだよね。竜真くん、相手してみよ。」
それは、その声は、入門志願者だった。入門志願者は一度、手合わせをし、その技量を見極める。普段は特定の位の者が対応するらしいが、柚多は、試しにと、竜真に相手をさせた。
「まぁ、気楽にやってよ。天音さんと対峙できたなら、大丈夫だよ。」
という柚多であったが、入門初日の竜真が相手をして大丈夫なのか不安になる。それと合わせて、自分もこんな風に思われていたんだなぁ、と思うのだ。
木刀を持ち、入門志願者と対峙する。「はじめ!」の合図に、相手は突進してくるなり、面打ちを仕掛けてくるが、遅すぎる。
竜真は余裕でかわすと、相手の背後がガラ空きだ。
ここで背後を打てば、勝ちとなるが、あまりにも簡単に勝ててしまうことに躊躇する。このまま、背後を狙ってしまっていいものか。
そう考えていると、相手は、きょろきょろし始め、背後にいた竜真に気づき、
「何、いつの間に背後に。お主なかなかやるな。」
と言ってきた。特段、竜真は何もしてない。ただ、攻撃を避けただけだ。
そのあと、相手が同じように突進してくるので、さっと躱し、今度は背後をちゃん一撃を入れる。
「はい、そこまで。」
柚多はそこで、試合を中断させる。
「うん、君はちょっとまだ、剣術の基礎を押さえたほうがいいね。知り合いの道場に推薦状を書いておくから、まずは、そこで基礎を学ぶといいよ。」
そういって、柚多は何とも大人の対応で、入門志願者を門前払いにした。
「大体いつも、こんな感じかな。一日に一人か二人はいるんだよね。でも、たまに本当に強い子もやってくるから気をつけてね。」
「気を付けてね」と、まるでさわやかイケメンのオーラ満載だ。まるで、顔の周りにキラキラしたものが、見えそうな勢いたが、竜真にとっては、他の志願者のレベルがわかっただけでも、勉強になった。
きっと柚多もその意味でわざと竜真に相手をさせたのだろう。
そんな感じで、多少の変更はあったが、無事に初日の訓練メニューをこなした。模擬戦では柚多が竜真の相手をした。
さすが、目録の位だけあって、竜真は太刀打ちできなかった。
天音さんの時ほどではないものの、技の速さ、切れが一段上である。察知する特殊技能で、次にどこから攻撃が来るかわかっても、早さに追いつけず、対応ができなかった。
一旦昼をとり、午後からは個人指導だ。ちょうど流庵も午後から入り、道場奥の一段高いところに鎮座した。
「竜真、早速やっておるか。励むがよい。」
と声をかけてきた。
声をかけたのは竜真だけではない。
「お前は、基礎体力が足りなすぎるからしばらく、基礎訓練を続けよ。」
「咲、お主がこやつとの相手をせよ。」
などと、門下生一人一人に声をかけているようであった。
十五時になると、一旦、訓練は終わりだ。しかし、住み込みで門下に入ったばかりの竜真には雑用などの仕事がある。その一つが夕食の買い出しだ。夕食の買い出しや準備は、天音さんがやっていたということで、天音さんと竜真の二人で買い出しに出かけることになった。