19道場での暮らし
竜真が目を覚ますと、布団の中にいた。先ほど木刀で叩かれたと思わる箇所に痛みを感じる。
布団から出ると、木刀で打たれた箇所に包帯が巻かれていた。起き上がり、戸をあけて部屋を出ると、外からの朝日が差し込み、まぶしい。丸一日寝てしまったか。
部屋を出た先は、綺麗に整備された庭園だ。池には鯉が泳ぎ、池からは小川が流れ、小さな滝がある。池には、小さな東屋が建てられ、すぐわきに立派な灯籠が置かれ、周りはカラマツが植えられている。見事な日本庭園だ。
竜真は、どこに行くべきかと、右往左往していると、道着を来た高身長でなかなかイケメンな好青年が現れる。
「竜真くん、おはよう。ようやくお目覚めかな。」
「おはようございます。そ、その。すいません。どうやら一日中寝てしまっていたようで。」
「はっ、はっ 。そんなことないさ、天音さんを相手にあそこまで善戦するなんて凄いもんさ。大抵はみんな一撃でやれてしまいますよ。」
はっ、 はっ、という乾いた笑い声が、何ともイケメンらしく、鼻につく。
「あっ、紹介が遅れました。自分は、大東一刀流 目録 師範代 柚多と言います。竜真くんの教育係です。」
「竜真と言います。どうぞ、よろしくご指導のほど、お願いいたします。」
「こちらこそ。そうですね、天音さんが朝食の支度をしてますので、そちらに行きましょうか。」
柚多と話をしながら、廊下を歩いていたが、大東道場には門下生が二百人近くいるのだとか。
しかも、門下生にしてくれという人が毎日毎日、やってくるそうだ。そういう者へは、一定の位の者が対応して、技量を確かめるという。
大抵は、剣も扱ったことがないド素人だそうで、「出直してこい」と追い返すという。
そのような剣術のド素人でなくても、「何とか流の誰々である、一番強いやつを出せ」と言ってくる癖に、いざ、戦ってみると、あまりに弱すぎて話にならないこともあるそうだ。
竜真の場合も、同じだろうと見られてたそうで、天音さんが相手と聞いて、「一撃でやられるんだろうな」と皆思っていたそうだ。まぁ、実際にやられているのですが。
柚多と竜真がついた先は、道場内の広間だ。
柚多の話では、半数の百人程が道場に住み込んでいるのだそうだ。竜真も住み込みの予定だ。
それだけの人数を収納できる広間に綺麗に列をなして机が並べられ、皆、朝食の準備をしていた。
先着順らしく、皆、我先にと、おかずやご飯を取りに行こうしているようだった。
広間の先に土間があり、そこが調理場のようである。
ちょうど、天音さんが大きなお釜を土間から運んでいるところだった。
天音さんが運んでいるお釜を広間の先に置くと、住み込みの門下生たちが我先にと群がってくる。
道場に住み込みの場合であるが、一日の基本は、朝七時から始まる。多くの者はそれより朝早く起きて、走り込みや素振りの朝練をする者も多いが、七時には朝食、その後、道場内の掃除、九時には道場での特訓が始まる。
最初は、筋トレ、素振りなどの基礎訓練、それから、模擬戦などを行う。
昼をとった後は、各自の教育係の指導の下、個別指導が行われ、午後三時ぐらいには解散となり、基本は自由行動、自主練習をするなども多い。
ただし、道場に入門したての者は、買い出しや夕食の準備などの雑用をこなす必要があった。
これが、基本的な道場の日課なのだ。