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18模擬戦

 竜真は、中段に構えなおし、間合いを徐々に狭める。相手の天音は、相変わらず無表情のまま。

 今までの相手は何かしらの表情があったが、こうも無表情であると、どう出ていくべきか、判断に迷う。

 竜真は、さらに間合いを狭める。もう、相手の間合いの中だ。いつ剣戟が飛んでもおかしくないが、相手は相変わらず、無表情で動く様子がない・・・。しばらく、静の間が続く・・・。こちらから仕掛けるか。


 どちらも、守りに入っている様子に、流庵から一言が入る。


「竜真といったか、貴様がこの道場の敷居を踏んだのだぞ。」


 それの意味することろは、竜真からお前から攻撃をせよ、ということ。わかっている。


 竜真は、一気に攻に転じる。相手は皆伝を取得している身、かわされるか、剣ではじき返されるだろう。

 だが、この静の流れを変えるため、あわよくば、そこに隙が生じれば、反撃の一撃を与えるため、相手の面にむけて剣戟を繰り出す。


 天音は、それをさっと肩身半分程度体を動かし、避ける。そこから転じて竜真に向けて剣戟を出そうとしたが、その瞬間に胴がガラ空きであることをみた。

 これこそ、竜真が狙った反撃の絶好のタイミング、すかさず、高速な胴薙ぎを竜真は繰り出そうとした、瞬間である。


 背後に何かいる。


 悍ましいまでの寒気、霊感が竜真の背後を襲った。それは、今朝がた、葵と魔術訓練をしていたときの『気』と同じもの。全身が、赤信号を出し、緊急危険信号を知らせる。


 竜真はとっさに攻撃を中止し、背後を振り返り、防御態勢をとる。

 すると、天音から繰り出された攻撃が、なぜか背後から襲ってきた。とっさに、木刀でそれ受け止めるが、何が起きたのか、全く把握できない。

 間一髪をあけずに体右側面から、例の危険信号を察知する。とっさに、木刀で構えると、そこに攻撃が撃ち込まれ、結果として、攻撃を防御することができた。これも、何が起きたかが、全く把握できない。


 天音から一旦、間合いを取り、小休止する。


 周囲の門下からは「おおぉ」という、感嘆の声が漏れていた。たまに「天音の剣舞を防いだだと、」という驚きの声も聞こえる。


 おそらく、推測するに今のが天音の奥義や必殺技に類する技だろう。対する天音は相変わらず無表情。横目で流庵を見たが、じっと、こちらを注視している。


 竜真は、一度、何が起きたか、整理する。天音は確かに自分の攻撃を避けた後、守りから攻めに転じた。だが攻撃は背後から来た。次の二撃目も側面から来た。


 一切、何も見えなかったが、わずかに剣戟が背後や、側面に回り込むような残像が見えた気がした。おそらく、攻撃の直前に剣戟の方向を変えたのか。早すぎて対応ができない。


 そして、あの寒気だ。これは今朝、葵との魔術訓練で体感したものと全く同じ。

 そういえば、葵が言うには、背後に誰かいるような気配こそ、魔術の元となる『気』であり、気配を感じること自体、索敵に相当する魔術と言っていた。

 もしかして、この寒気が索敵に相当する魔術なのか・・・、索敵というより、相手の攻撃を認知するような魔術なのか・・・。


 とりあえず、竜真はそれを、魔術というよりは、技に近いので、『察知』の特殊技能と呼ぶことにし、その特殊技能を頼ることにする。


 竜真は、再度、間合いを詰める。天音との間合いを狭め、攻に転じた。

 天音は竜真の攻撃を木刀ではじくが、これは想定の範囲。天音が竜真を攻撃をしようとするが、ここで例の特殊技能発動。天音の攻撃は確かにうっすらと目に残像が見えるかの高速な動作だったが、察知の特殊技能のおかげで、次の攻撃を把握することができ、木刀ではじく。


 一度、間合いを離れて、再度、攻撃に転じる。


 この攻防を三,四回繰り返す。木刀同士の剣戟が激しく音を立てて、道場内に響き渡る。


 周囲の門下からは再度「おおぉ」という感嘆の声が聞こえ、みな座していたが、一部の者が立ち上がって観戦するようになった。

 竜真は再度、間合いをとり、小休止をとるが、ここで、ふとあることに気づく。


 これだけの攻防を繰り返したにもかかわらず、天音は最初に立った場所から一歩も動いていない。

 右足を軸足とし、それを軸として、向きを変えるだけで、竜真と攻防を広げていた。

 つまり、本気では相手にされてないということだ。


 ここで、流庵が声を発する。


「天音、もういい。片をつけよ。」


 天音は着ていた着物の裾を捲くし立て、膝が見えるぐらいに捲る。綺麗な足筋が見えるが、足を上下に開き、そのまま姿勢を低くし、木刀の構えを居合を繰り出すかのように持ちかえる。


 ・・・来る。


 竜真は、直感でそれを感じ取り、防御態勢に入る。その直後に、天音は突進する。

 突進というより、瞬間移動という感じか、来る、と感じた刹那の後には、自分の真正面に天音がいて、今まさに剣戟を出す瞬間だ。


 今までの竜真では対応できなかっただろう。だが、例の特殊技能により第一撃を木刀で防ぐ。


 その瞬間に周囲から「おおぉ」という歓声が聞こえるが、竜真はそれどころではない。


 第二撃目が来ると感じた瞬間、自身の特殊技能が全身に危険信号を知らせる。全身という全身から寒気を感じた。今までのように特定の方向から気配ではない。全身に同じような攻撃されるという気配が現れた。初めてのことに、竜真はどこをどう防御すればいいのかもわからない。


 そして、次の刹那には竜真は体は胴を薙ぎ払われ、宙に浮き、ほぼ同時刻に背中を木刀で叩かれ、さらに足、小手も同時に木刀で叩かれた。


 竜真は空中に漂いながら意識を保っていたが、空中では何も身を取れない。何が起きたのかもわからない。そして、特殊技能により、次に、突きがくる気配を感じたが、この宙に浮いた状況では何もできなかった。


 最後に強烈な突きをまともに受け、道場の壁の方へと飛ばされ、そこで意識を失った。


 竜真が天音の攻撃を防ぐ度に歓声をあげていたが、あまりに一瞬の出来事に道場内は物音一つしない静かな空間となった。

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