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17剣術修行

 竜真は、洋館を離れ大東道場へ向かう。その横には葵も一緒だ。

 葵はついていく必要はないが、竜真が道場の場所の詳細を知らないらしく、案内を買って出てくれた。

 一応、こう見えても、葵は商人。古京に仕入れに行くついでだという。


 それは、竜真にとって非常に頼もしいが、古京の中心部に近づくほど、竜真の緊張も増し、徐々にできるだけ、人目を避けるために下を向いて歩くようになる。なにせ脱獄者だ。


 ある程度、進むと、ある広場に人だかりができていた。その中心には立札が立てかけられている。近づいて、見てみるとこう書いてあった。


「左記のもの、先日、牢獄から脱獄し、他の囚人たちを脱走させ、大混乱に貶めた。我が大京国に叛逆する者とし、見つけ次第、断罪に処す。」


 そして、その左記の部分には二人の似顔絵が書かれている。

 うん、確かに、葵の言う通り、似顔絵は下手くそだ。まるで稚児が遊びで書いたというレベル。これで見つかる方がおかしい。立札に描くほうが恥ずかしい。見てるほうも恥ずかしい。


「ほら、言ったとおりでしょ。これで、見つかるわけがないでしょ。役人は何を考えているんだか・・・。」


 葵は、自慢気に主張する。

 竜真は一安心するのだが、ふとそこで、背後、左右から底知れぬ、寒気を感じた。何だろうか、たくさんの人だかりができているが、その視線が自分たちに向けられているような・・・。


 竜真は葵の袖を引っ張り、下を向きながら、先を急がせようとした。

 古京の人たちは、何か、特殊な美的センスを持っているのかもしれない。


 大東道場は、古京の中心部から少し離れたところにある。葵は、ここまで案内すると、


「そんじゃ、剣術も頑張ってねー。」


 と手を振りながら、どこかへ行ってしまった。何とお気楽なことか。


 さて、竜真は大東道場の門前を真正面に立ち、一度襟を正して、中へ進む。

 何せ、本来は剣術の修業のためにわざわざ古京まで来た。葵の魔術修行もあって、少々日は傾いたが、周囲はまだにぎやかな時間だ。


 ちょうど、道場の扉は開かれ、中からは木刀の剣戟の音や、気合を入れる声、「バカヤロー」といった怒鳴り声が聞こえる。


 門から道場へ進むと、目前に掃除している若い女性がいた。

 この道場の女中だろうか。着物にたすき掛けして、箒で掃除をしている。背が高くて綺麗な人だ。葵に比べるとやや茶色で長い髪を後ろでまとめていて、そのうなじが美しい。緋色の花のかんざしが目立つ。


 その人へ竜真は声をかける。


「千砂ノ町より参りました竜真と申します。大東道場の門下生となるべく文を出しました。道主様へのお取次ぎをお願いしたく。」


 掃除をしていた女中は、箒を傍らに置き、丁寧に竜真へお辞儀をした。

 竜真も、慌ててお辞儀をする。女性は無言のまま、手でこちらへとという仕草で竜真を案内する。


 案内された先は、道場の中だ。道場の中には多数の門下生たちが修練をしていたが、竜真が現れたことで、修練は中止され、みな視線を竜真に合わせた。


 練習でざわついていた道場内は、竜真の登場によって急に静かになる。

 女中が案内した先は、道場の最奥だ。一段、高くなったそこにその人はいた。大東道場 道主 東の猛虎 剣人 大京国 大東流庵だ。


 さて、今、竜真の目の前にいる流庵は、大きく胡坐をかきながら、顎をさすり、竜真の目をじっくりと見つめていた。見た目は年齢五十ぐらいの大男だ。ところどころに白髪が目立つが、腕や道着の隙間から見れる肉体は、常日頃修練を怠っていないと見る。


 竜真は、流庵の前まで来ると、丁寧にお辞儀をし、その場で、膝を床につこうとするが、それを流庵は止める。


「待て、そのままでよい。」


 流庵は、目線を上下させ、竜真の顔立ちから全身の状態、足先までじっくり見つめる。

 何とも言えない間が空き、竜真は、ここは挨拶をしておくべきと思い、声を出す。


「千砂ノ町より参りました竜真と・・・」


 ところが、流庵をそれを遮るように、声を出す。何とも太い声で、それでも威厳を感じずにはいられない。


「天音!こやつの相手をせよ。」


 天音とは、誰かと思い、付近を見渡すが、誰も動かない。

 動ているのは、先ほど案内してくれた女中であるが・・・まさかと思うが、この女中が天音か。


 竜真の予想は的中する。天音と呼ばれた女中は、道場に立てかけられている木刀を二本とり、一本を竜真に渡した。

 そのまま、竜真と一定の間合いを取り、下段に構える。相変わらず、一言も声を発せず、無言、まったくの無表情。


 竜真は、木刀を受け取り、中段に構えた。突然の試合となったが、こうなることは予想はできていた。

 予想外だったのは、相手がまさかの女中であろうと思った人だったこと。


 掃除をしていたときの、着物にたすき掛けの出で立ちのままで、動きづらくないのか。それに、何よりもこんな綺麗な人を相手に、本気で攻めてしまってもいいのか。


 その疑問に答えるかのように、流庵から補足が加えられる。


「言っておくが、天音は、皆伝の位だ。本気で相手をしないとケガするからな。気をつけろよ。」


 そういうと、小さい声でありながらも周囲の門下生から鼻で笑うような声が聞こえた。竜真を田舎から来た侍だと思い込んで、下に見ているのだ。


 竜真は周囲を気しない。ただの女中なら問題だが、大東一刀流 皆伝であるならば、本気で向かっても問題ないだろうと安心したのだ。

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