14竜真、弟子になる
「弟子よ。飯の準備はまだかね?」
葵は椅子にふんぞり返りながら、ここぞとばかりに、弟子を使い走りにしていた。葵は、竜真を弟子として認定したのだ。
「ただいま、お持ちします。」
と言って、竜真が準備するのは、葵から指示された保存食が入っているというツボ。中みると・・・う~ん、何というか、ほのかに臭みのあるぐちゃぐちゃしたものが入ってる。食べられるのだろうか。いや、ご主人様が保存食というので、食べられるはず。
そんな感じで、早速、葵の奴隷、というか、弟子として夕食の準備を進める。
「えーと、その葵様、魔術の修業はいつからやりましょうか。」
「手を休めるでないぞよ。では、早速、明日から修業と行きますか。」
こんな感じで葵が自らが師匠となり、一から魔術の手ほどきをしてもらえることになった。
「ところで、あんたは、古京の大東道場へ剣術修行に来たのではないの?そちらはどうするの?」
それは竜真が今一番心配していたことだ。なにせ、大東道場に入門の件ですでに文を出している。
ところが、その剣術修行へ向かう途中、異端者として捕まり、牢獄から脱走、さらに顔も見られ、とても剣術修行どころではない。
「剣術修行は、脱走の件で、今は古京には行けないですしね。」
だが、ここで葵がまさかの発言をする。
「あなた知らないのね。顔も見られているけど、牢屋敷の役人たちは似顔絵で手配をかけるのよ。大抵、似顔絵が下手クソだから、バレないわよ。もし、言われても、『よく間違われるんです。』とか言ってれば、問題なしよ!それに大東道場の門下生となるのでしょ。大東道場の門下生と言えば、逃してくれるわよ。」
衝撃だ。本当ですかと。
あんだけ騒ぎを起こして、古京へ戻っても大丈夫だと、葵は言う。竜真には、そんな度胸は持ち合わせてない。
「どちらにしても、今日はボロボロだけど、隣の神社の社の中に泊まるといいわ。かと言って、毎日、そこに泊まるわけにもいかないでしょ。」
えっ、ここの洞窟の中に泊まらせてくるのでは。初夏とはいえど、夜になれば肌寒く、風が吹けば凍えそうになる。あのボロボロの神社の社では、風をしのげそうにない。意外と洞窟の中は、気温が安定していて暖かい。
「えっ、師匠、ここに泊まらせてくれるの・・・。」
と言い切る前に葵から言われる。
「あたし、年端もいかない女子なんですけどー。」
はい、そうですね。竜真は今夜が凍えそうになる覚悟を決めながらも、テーブルの上に本日の夕食を準備するのだった。
意外にも夕食はうまかった。すぐ近くにミカンの木が生えており、そこからもぎ取ったミカンと、例のツボの保存食だ。
見た目こそ、その、あれであるが、葵が言うには、魚介物を腐らなように漬けた物らしい。古京付近の漁師たちの間では割と知名度があるらしく、日持ちするので、古京に行った際には、かならず仕入れ、このあたりの農夫や商店に売っているという。さすが、商人の娘だ。