12葵の隠れ家へ
竜真と葵は、しばらく休憩を取った後、葵の隠れ家に向けて歩き始めた。
すでに傾いた日が田園風景の奥の山並みに隠れそうな時間だ。
もう、追手は来てないため、街道上を堂々と歩く。
二人は、街道を進みながら、互いに自分たちの身の内を話していた。
竜真は、剣術修行のために古京の大東道場を目指したこと、途中で道に迷い、廃村のような村で悪い者たちに捕まり、今日に至ること。昔、黒船がやってきたときに黒船に乗り込み、そこで、魔術を目のあたりにしたこと。
剣術については、地元の道場では優秀な成績で免許皆伝になったことなど、などなどを話していた。
「あの程度で、剣術免許皆伝なんて、どんな田舎なのよ!」
などと罵られたが・・・。
逆に葵からも、身の内の話を聞くことができた。
葵はもともと、このあたりの農家が作った作物を古京で売りさばいている商人の娘だそうだ。古京の問屋とこの付近の村を毎回行き来して物を売りさばいていたらしい。両親は数年ほど前に他界したらしく、父親の仕事を引き継いで、一人で商人をやっていたという。
黒船騒ぎがあった際は、古京の近くにも黒船が数隻停泊したらしく、こちらでは海兵たちが上陸してきて、領内を悠々闊歩したらしい。その際にやたら自慢してくる海兵に出会って、魔術というものを見せてくれたらしい。
やたら自慢・・・という、ところに竜真は何か、引っかかるものを感じていのだが・・・。
そのあと、自身も魔術を使えるようになりたいと、黒船の船員に弟子入りをせがんだのだとか。そして、いろいろ、魔導書だとかを読みまくって、海兵さんに指導してもらい、ようやくあの魔銃を使えるようになったとか。
「それで、田んぼの真ん中で練習していたら、見つかって捕まったというわけよ。」
確かに、この付近の田んぼ、畑は、遮るものがないので、街道から丸見えだ。というか、なんで田んぼの真ん中で練習を・・・。
「ところで、魔銃が使えるのはわかったけどさ、その体術はどこで習得したの?」
竜真が気になるのは魔銃もそうだが、あの脱走時の身のこなしだ。
「え、別に・・・ただ、普段から木登りしたり、木の上から飛び降りたり、屋根の上を走り回ったりいろいろしてたからね・・・。」
えっ、それだけで、と思いながら、竜真も木登りとかしてみようかなと思うのである。
そんな二人がしばらく街道沿いを歩いていくと、見渡す限りの田んぼ、畑の中にぽつんと小さな丘があった。雑木林で囲まれており、その頂付近に鳥居の一部が見える。この付近の土地神様だろうか。
「みて、あそこに小さなか丘が見えるでしょ。あそこが、あたしの隠れ家。」
葵は、街道をはずれ、田んぼの中の畦道を小さな丘へめがけて足早に進む。
小さな丘のふもとには、石段があり、葵は軽い足取りで登っていく。
竜真もそのあとを重い足取りで追いかける。
頂上付近には、先ほど街道から見えた鳥居があり、その奥にボロボロではあるが、小さな神社があった。
小さな丘であれど、登りはきつく、竜真が登り詰めるころには、息が上がっていた。そのころ、葵ではすでに登り切っており、神社の前で手を合わせていた。何かを祈願しているのか。
竜真は葵の隣に立ち、同じく手を合わせる。隣の葵から小さな声が聞こえた。
「おいしいものが食べられますように。」
食べ物の話かい、と突っ込みたくなるが、そこは聞き流し、竜真も祈願する。
(この先、無事に生きて帰れますように。)
竜真は口に出さずに、本気で祈願した。何せ、脱獄だ。しかも、他の囚人たちを脱走させ、顔も見られている。このまま無事に過ごせるとは思えない。
「こっちよ。」
竜真も葵に言われて、建屋の背後に回ると、そこは雑木林だがその中に大きな岩があり、その下の部分にちょうど人一人が入れそうな穴があった。
天然の洞窟だろう、斜め下方向に下る洞窟で真っ暗で中が見えない。
葵は、ずかずかと暗い洞窟の中に進んでいき、入り口を少し入ったところで、懐から火打石を取り出して、カチッカチッと、石をこすると、壁の一部に火が付いた。どうやら、壁の一部が窪んでいて、そこに油が入っているようで、油に火をつけたようだ。
決して明るいと言えないが、洞窟の中がほんのり、淡い橙色に色づき、急に空間が明るくなった。明るくなったことで、その空間の全容を把握することができるようになったが、その光景に竜真は驚愕する。