135ガーデンへ
ガーデンはバランタインの中央部にある。
中心部は小高い山となっているので、ガーデンへ続く道は、上り坂となっている。
その上り坂を一人の若者と、背が低く銀髪に紅い瞳の少女と、意気揚々とした老婆が登っていく。
ちなみに、背が低く銀髪に紅い瞳とは、タリスカーのこと。タリスカーは髪をツインテールにまとめている。どうやら、給仕の仕事以外は、ツインテールに髪をまとめるらしい。
ガーデンへと至る道には、守衛所があり、兵士が警備に当たっている。外来者が通過するためには、用向きや面会先などを兵士に申請して通過することになるのだが・・・。
「おい、止まれ、要件と誰への面会なのか申請しないと通れないぞ。」
兵士の問いに応えるのは、先頭を意気揚々として歩いていた老婆だ。まさかひ弱そうな老婆が対応するのかと兵士たちも多少驚く。
「モルトよ。」
そして、モルトと答えることで、さらに驚き、互いに顔を見あわせるが、すぐに兵士たちは納得し、微笑むのだ
(あぁ、なるほど。このおばあちゃんは、ボケてるな。)
だが、 次の言葉に兵士たちは肝をぬかす。
「このあたしに、何年も苦しみを与えてくれたモルトのクソ野郎を掴まえに来たのよ。とっとと、そこを通しなさい!」
さすがに兵士たちも黙ってはいられない。
「おい、おい、さすがに、今の言葉は看過できねぇぞ、誰だ、保護者は?今のは聞き逃したことにしてやるが、しっかりと介護してくれ・・・」
ドッシン!
兵士の言葉を遮るかのように、突如、巨大な槍が、天から降ってきた。
槍とはいえども柄や刃には美しい装飾が施されている。葵の魔術、魔銃を改良した魔術、魔槍だ。
魔術、魔銃の真髄は、形ある物体を魔術で形成することにある。それができれば、このような応用さえ可能だ。それこそが繰り返す歴史のループの中で、葵が昇華させた魔術だ。
決して、ひたすらに歴史のループを繰り返してきたことも、決して無駄ではなかった。
山中の守衛所に巨大な槍が突き刺さる。兵士たちに直撃しなかったももの、それでも軽く体が吹っ飛ぶ。
葵、わざと狙ったか。
「・・・。」
直後、辺りに、一瞬の静寂が生まれたが、すぐに兵士がそれを破る。
一人の兵士が守衛所の中に駆け込み、応援を呼ぶ。
守衛所の中から数人の兵士が飛び出し、抗戦の準備を整える。一方で一人の兵士は伝令のためにか、ガーデンの方へ向かって走っていった。
兵士たちは剣を抜き、構えるが・・・
「タリスカー!」
「承知しました。ご主人様。」
葵がタリスカーに一声をかけると、相手の兵士に回し蹴りを食らわせ、吹っ飛ばす。
すぐに、応援の兵士たちが、タリスカーの背後を狙い攻めるが、まるで背中に目でもついているかのように、それを華麗に避け、再び、回し蹴りで吹っ飛ばした。
「さっ、とっとと行くわよ。」
タリスカー一人で、その守衛所を制圧してしまったのだが、葵は何事もなかったかのように歩みを進めていく。
未だ、竜真の手を強引に引っ張りながらだ。
まるでまわりを飛んでいる蚊でも追い払うかのようだ。