133パーティ会場にて
モルトは、西国遠征の全責任を持っている。
すでに、大海戦では、西国、つまり、大京国に大敗北を喫していた。
総帥に大海戦の敗北について問われるものの、まだ敗北などしていない、と啖呵を切っていた。
そして、今回計画したこのパーティこそ、長年研究し続けた古代魔術、絶魔終滅魔術、通称、神撃を披露する場であり、参加した貴族たちの目の前で大京国を滅ぼすことで、大海戦での汚名を回復する予定だった。
さらに、内部調査によれば、どうやら大京国の諜報員が紛れ込んでいるという。なので、内密に犯人を特定した。パーティでそいつらを曝け出すことで、さらに演出に華を添える計画だったはず。
だが、今、目の前で繰り広げられた光景は一体なんだ。
内部情報を流出させていた大京国の飼い犬をあぶり出したまでは良かった。
だが、そこに突如として現れた、女と謎のジジイ、その二人によって、我が魔術兵は一瞬で一掃された。
絶魔終滅魔術、神撃を発動させたあとだった。だが、あのジジイはなんだ。
古代魔術で禁術とされていた神撃をかき消しやがった。
神撃をかき消すなど、並みそれたジジイではあるまい。それに、あの青いローブ、あれは、遥か昔、このバランタイン帝国時代の古代の制服なのだ。
だが、今はそのようなことを考えてる場合ではない。
ふと、誰かがモルトの肩をトントンと叩いた。
振り返ると、バランタインの総帥である。
それに、このパーティ会場には自らが呼び寄せた貴族や王族までいるのだ。皆、目の前で起きたことをすべて、眼前に焼き付けていた。
「モルト君、他に見せるものはあるのかね。」
「い、いえ・・・」
「そうか、であれば、私は忙しいので、先に失礼するよ。」
総帥はその場を去っていった。
「モルト様、ちょっと、うちの商店でトラブルがあったらしくて、先に失礼させていただきます。」
「モルト様、天気が悪く、帰りの船が欠航するかもしれないのとのことで、先に失礼します。」
「モルト様、うちのかみさんが、お使いを頼まれていたので、先に失礼します。」
「モルト様、ちょっと、うちのペットが喧嘩したそうで、先に失礼します。」
「モルト様、ちょっと、なんというか、なんとなく帰りたくなったので、先に失礼します。」
他の貴族たちも、モルトの見せたデモンストレーションが失敗したとわかると、何かと理由をつけてては、その場を逃げるかのように会場を後にした。
さて、会場に残った者といえば、衛兵とモルトの付き人、バランタイン国王と王妃と、貴族に扮して紛れていた食事にむさぼりつく貧民ぐらいものだろうか。
ズドン!
モルトは会場内の柱を拳で叩いた。
モルトからすれば、大海戦に続いての失態である。それも、来賓を招いて上での盛大な失態だ。
「クソっ!誰だあいつらは、大京国のサルどもめが・・・。」
その様子を会場内の数段高くに設けらたテラスから、バランタイン国王は、目を細めて、その様子を見つめていた。