130あるループでの異変 街に鳴り響く鐘の音
おじさんは、あの天音に勝った。異常なまでの実力を持ち、大海戦では海の上を走る超絶技を見せた天音にだ。
一方で、神撃により集まった高エネルギー体は、未だバランタインの上空へと集まり、ついに太陽をも隠し、辺り一面を薄暗くする。この世の終わりのように、空は赤黒く、たまに黒い稲妻が見え、バチッという音がする。
ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・・
突然どこからともなく聞こえ始めた鐘の音。
街には昔の名残で、教会の尖塔に鐘がついていた。今はただの飾り、決して鳴ることのない鐘。だが、今、街中の鐘が一斉に鳴り始め、鐘の音は、ここガーデンでもはっきりと聞こえる。
「ヴァン=ゴッド、神撃を。」
そう、おじさんに進言するのは、天音だ。おじさんに吹き飛ばされたが、すでに立ち上がっている。
ヴァン=ゴッド、という呼ぶのはおじさんの名前だろうか、竜真は初めておじさんの名前を知る。
「あぁ、これか。モルトの奴め、こんな失敗作を復活させおって。おい、小僧、もう一つ凄いものを見せてやろう。」
おじさんは、再び竜真へ自慢をしながらも、刀を抜き、それを天へと向け、集中し始めた。
数秒経過したが、何も起きない。
だが、徐々に、気のせいか、おじさんの周りに赤い淡いオーラが、取り巻き始めた。
天音や、葵もその様子を見ていたが、気のせいでなく、おじさんの周りに赤く深い色をしたモヤのようなもがはっきりを見えた。
赤黒い空からは、空の一部が地面へと伸び始めて、まるで竜巻でも起きるかような様相を呈す。そして、地面へと伸び始めた空の一部はついに、おじさんが天へと伸ばす刀の切っ先へ伸びた。
空に展開される高エネルギー体がおじさんへの体の周りへと移動し、おじさんの周りには明確に禍々しいまでの深紅のオーラで包み込まれた。
それは、昔、竜真へ蒼蓮腕という技を見してくれたときと、似たような光景だ。
おじさんは、そこで再び竜真に自慢をする。
「どうだ、凄いだろ。気を吸収し、それを放つ技じゃ。紅き気を喫し、奈落にまで反する剣、紅喫反奈剣だ。」
おじさんは、天へと向けていた刀を、横にする。自らの周囲に纏う深紅の気の集合体のすべてを刀に集め、それを天音へと向け、そのまま横一直線に薙ぎった。
深紅の濃厚なまでに凝縮された気の集合体が、扇型に平面となって広がり、天音へと向けて襲いかかる。
だが、天音は刀で一刀するのみ。その一刀した部分だけが、天音を避け、そのまま背後の街中へと広がった。
「まぁ、お主のこと、そうなるだろうな。」
おじさんは、まるで、こうなることを分かっていたかのように吐き捨てる。
すると、どうか、深紅の気の集合体が街中へと広がるが、それまで禍々しいまでに深紅の色をしていたものが、街中へ広がるにつれて、虹色へと変化し、雨粒が降り注ぐかのように、街中に降り注いだ。
気を吸収された人々は、その場に動けなくなっていたが、その虹色の雨粒を受けると、吸収された気が戻ったかのように復活した。
おじさんが空に凝縮されていた気を吸収し、それを放つことで、気を吸収された人々に還元されたのだ。
気づけば、バランタインの島は、いつの間にか、雲一つない快晴となっている。
街には人の声は消えたが、吸収された気が還元されたことで、徐々に街には人の声が出始めていた。
ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・・
再び、鐘がなり始めた。だが、それは、神撃、絶魔終滅魔術によるものではない。
世界があらたな歴史を刻んだという証拠。原理はわからない。
だが、鐘は鳴り、神撃とまで呼ばれた絶魔終滅魔術に伏した人々は徐々に復活しはじめ、皆喜んだ。
「小僧、どうだ。凄いだろ。気を元へ戻す技じゃよ。はっ、はっ、はっ。」
おじさんは、再び竜真に向かって自慢した。
「神撃という魔術はな、儂が、魔導書に失敗作として残したものじゃ。まさか、あれを真面目に復活させる奴がいるとはの。」
そう言うも、これまでの一連の流れは竜真の理解を遥かに凌駕している。
けども、うっすらと、まさか、と思うところはある。
「おじさん、もしかして、・・・。」
「あぁ、言ってなかったの。儂はの、ずっと昔にこの地で魔術を創ったのだよ。遥か昔の魔術の黎明期はの、皆が魔術に魅力され、より美しい魔術を求めたものだった。楽しんでいたのだよ、魔術というものを。」
竜真は、ポカンと口を開けたまま。
「魔術を創作した者からすれば、その魔術が後世にどう影響したか、気になるのだよ。だから、いつしか、時空間を移動する魔術を創り、こうして儂がここに現れたというわけじゃな。どうだ、儂が魔術を創った天才なのだよ。凄いだろ。」
竜真は、もしやとは、思った。でも、そんなわけがないと思った。
でも、世界がこうなっては、認めざるを得ないのだ。
「けども、残念だの。美しいはずだった魔術は、いつしか、戦いの道具になってしもうたな。しかも、こんな失敗作を復活させるとはな。」
・・・。おじさんは、未だに信じることはできないがこの時間の者ではない。
「さて、小僧よ、ようやく、これで時間は進む。さすれば、やることがあるのでは?」
そう、竜真はこの一連の流れに圧巻され、未だ理解が出来ない点もある。
けども、今、竜馬と葵は、何をしていたかといえば、モルトの諜報がバレ、逃げ出していた途中だったのだ。
「おい、いたぞ!!」
背後を見れば、先ほどまで倒れていた兵士が立ち上がり、何事もなかったかのように、こちらへと襲ってくるではないか。
竜真は、天音さんの方を振り向くと、
「ミカン・・・。」
だた、その一言だけ言っては天音さんは、兵士たちの雑踏の中へと消えてしまった。
本当に言葉数の少ない人だ。何が言いたいかわからない。それに、おじさんがそうなら、天音さんも・・・。
けど、今やるべきことは別だ。
「葵、逃げるぞ。」
「うん。」
竜真は葵の手を取りながら、おじさんへと振り返る。
「はよ、逃げんと、捕まるぞ。は、は、は。」
とまるで、この事態を楽しんでいるかのように、竜真に話しかけた。
過去の記憶を持たない二人からすれば、単に天音とおじさんが現れたようにみえたのだろう。未だわからないことは多すぎる。
だが、これは、これまで何度も繰り返した歴史のループからすれば、偉大すぎる一歩だったのだ。