129あるループでの異変 黒船のおじさんとの再会
戦いの様子を眺めているだけだった天音が動いた。動いたというより、残像しか残らなかった。
天音は、魔術兵へ向けて、刀で居合を放った。
居合によって生じたその鋭い鋭利なまでの真空によって、大旋風が起こり、その旋風に巻き込まれて、多くの魔術兵たちが、飛ばされ、地面へと叩きつけられる。一瞬で大多数の魔術兵を地へと伏せさせた。
だが、そこに唯一、平然として立っている男がいた。
他の魔術兵とは違い、青い服、というか、ローブのようなものを纏っている。バランタインの魔術兵とは、服装が異なる。
そう、竜真はこの人を知っている。竜真に魔術の魅力を見せた張本人、あの黒船に乗っていた人物であり、竜真を魅了した「蒼蓮腕」の技を使った人物。
竜真は目を見開いた。
「ほう、よく見れば、いつぞやの小僧ではないか。女を連つれおって。ずいぶんとませたじゃないか。」
「お、おじさん!」
葵は、「女を連れおって」ということに反応し赤くなる。
だが、今はそれどころではない。
神撃―――、絶魔終滅魔術は発動されてしまった。
空には、大小様々な青黒い光の球体が飛び交い、島内のあちこちを飛び去って行く。
「さて、天音か、久しぶりじゃの。時間の流れが乱れていると言うから来てはみたが、なるほど、どこかのアホが、古代の魔術を復活させたか。まったく、よりよって、こんな失敗作を復活させるとはの。」
天音は、何も言わず、コクリと頷くだけ。
「にしても、どれ、久しぶりにやるか。来い、天音。」
天音はおじさんの目を真っすぐに見据え、そして、突進した。
竜真は天音とは幾度か立ち会っている。天音の速さは竜真も知っている。残像すら残さず、目には見えないはず・・・だったが青い服のおじさんへと近くづくと、まるでそこだけ、時間の進みがゆっくりになったかのように、天音の動きがスローモーションとなる。
青い服のおじさんに近づくほど、それは顕著になり、剣先がおじさんの体へ触れようとするころにはまるで時間が止まったかのように、静止する。
「ぬるいのぉ。」
おじさんはあの天音の攻撃を余裕をもって歩きながら交わした。
空中で時間が止まったかのように、静止した天音を背後から蹴り飛ばす。
ズドーン!
天音はガーデンの壁にめり込むように吹き飛び、レンガの壁が崩れた。
「小僧、どうだ、儂の周りだけ時間を進みを変えたんじゃ。凄いだろ。」
おじさんの自慢する癖は昔と何ら変わりない。
それよりも、竜真は、まだ、この状況に理解が追いつかない。
理解は追いつかないが、実際にその光景はすごい。
竜真は天音と幾度か手合わせをしているが、勝てた試しがない。その天音を相手に、赤子の手をひねるかのように、天音に勝った。
さらに、自分の周囲だけ時間を進みを変えるなど、禁術レベルの魔術の話ではないのだ。