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11逃走 牢屋敷の外へ

 竜真と彼女は互いに顔を見合わせた。ここで、初めて彼女の顔を正面から見たのだが、結構かわいいではないかと、心の中で思う竜真だが、いったん、そちらは置いておき、互いに頷く。


 牢屋敷から飛び出し、二人は一目散に出口を目指す。


 後方のほうから、


「おい、誰か脱走するぞー。」


 という、声が聞こえると、進行方向に一人の刺又を持った兵士が道を塞ぐように現れた。

 そこは彼女の魔銃が炸裂し、問題なく通過する。そのまま牢屋敷を出て、大通りに脱出するところまでは成功した。


 後ろからは、役人や兵士たちが追いかけるが、通りは人混みがすごいのだ。

 あっという間に、後ろから追いつかれる。


 このままでは捕まるのも時間の問題と思われたが、突然、彼女が竜真の袖の裾を引っ張る。


「そこから、屋根上に行くわよ。」


 そこ、と言われた場所は、狭い路地、彼女は路地に入るやいなや、狭い路地を利用して、壁を蹴り、三角飛びの要領で反対側に飛んで、屋根の上へと華麗にジャンプした。忍か、と思わせる見事な動きだ。

 だが、見惚れているわけにはいかない。竜真も屋根上に昇らないといけないのだが、竜真に彼女と同じ動きができるわけがない。


「ほら、何やってるの!」


 彼女の手を借りて何とか屋根上へ昇ろうとする竜真。


「・・・重い・・・んだけど。ちょっと。」

「ごめん。」


 竜真は特に重いわけでもなく、むしろ、標準体型からすると少し小さめなのだが、華奢な彼女からすると重かったのだろう。ともかく、屋根の上に退避した竜真たちだった。


 あとは、二人でひたすら屋根伝いに逃走だ。背後からは「待てー。」と声が聞こえるが、徐々に小さくなってくる。町人たちも、なんだあれは、という怪奇の目で見られていたが、半刻も走り続けると、人通りの少ない町はずれに出られる。

 そこからは、屋根から降りて、ひたすら、街道を走って逃げたのだ。


 春とはいえど、天気がよく、初夏の陽気。日はすでに傾きつつあるが、古京の中心地からここまで走り続ければ、汗が止まらない。

 今は、二人は古京の町はずれの田園風景の広がる大きな木の下で、一時休憩をとっていた。


「とりあえず、撒けたようね。」

「撒けたけど、これからどうするの?」


 と言いながら、なぜか、竜真の周りだけに羽虫が寄り付くのを手で追い払う。


「とりあえず、今日の寝床と食料じゃない?」

「当ては?」

「一旦、あたしの隠れ家に行きましょう。保存食が少し残っているはず。」

「隠れ家?」

「えぇ、あたしの隠れ家よ。」

「あの・・・魔銃といいい、あの身のこなしといい、あんたは一体何者なの?」

「何って、あたしは、この先の田舎町で住んでるだけよ。隠れ家はあたしが作ったのよ。あんたこそ、何なの?なんで武士があんなところに捕まるのさ?」


 ただの田舎町の住人があんな動きができるわけないだろ、と竜真は思っていたがここは一旦聞き流す。


「騙されたんだよ。悪い奴らに。異端信仰者は役人に高く売れるらしくて、魔術の話をしたとたん、役人を呼びつけられて捕まったんだよ。」

「でも、魔術は見たことがあるって言うからには、魔術はあると信じてるんでしょ。騙されたも何も、普通に異端信仰者じゃない。」


 そもそも、魔術を使えるあなたの方が異端者じゃないですか、と思いつつも、心の中で聞き流す。


「そもそも、なんで魔術はダメなんだ。魔術を信じるだけでなんで、異端信仰になるんだ?」

「そんなの、知らないわよ。よくわからないけど、黒船騒ぎから、な~んか、大京国は魔術を知っている人を必死に探そうとしてるのよね。」


 そこで、会話のつながりが一時的に切れる。

 ふと横を見ると、葵は片手にミカンのような果実をを手に取り頬張っていた。ミカンは冬の果実なのだが、いったいどこから取り出したんだ?という疑問がわくも、竜真は一旦流す。


「なぁ、なんで俺に脱走の話をしたんだ?他にも囚人はいただろ?」

「あの状況を見て、モグモグ・・・他の囚人に脱走の話をふれると思う?モグモグ・・・」

「それは、そうだけど・・・。」

「一か月近く、捕まっていたけど、みんなあんな感じよ。モグモグ・・・ひ弱そうだけど、あんたが一番真っ当そうだから声かけたの。モグモグ・・・それに、時期的にもそろそろあたしの番が回ってきそうだったし。モグモグ・・・時間がなかったときに、たまたまあんたが投獄されたのよ。使いものにならなくても、盾ぐらいになるかと思って声かかけたのよ。モグモグ・・・」

「ちょっと待て。脱獄できたからいいものの、囮にする気だったのか!?」

「えぇ、使い物にならばければね。モグモグ・・・実際は、奮戦してくれたせいで、何とか脱獄できたんだし、モグモグ・・・いいじゃないの。」


 と言って、ミカンを頬張りながらも、もう片方の手で、竜真の背中をバンバン叩く。


「なんか、すげー上から目線なんですけど。」

「いいの、いいの、ほら、食べる?」


 といって、腰の袋から葵はもう一つミカンを取り出しては、竜真に手渡す。

 一体どこで手に入れたのか。


 はぁ、と、ため息をつくも、竜真はミカンを受け取り、頬張る。

 とにかく、ようやく、落ち着くことができた。もらったミカンを食べながら、ゆっくり深呼吸し、今一度、自分の身に何が起きたのかを振り返る。


 もともと、剣術修業のためにやって来たが、とんでもないことになった。

 なにせ、異端者として捕まり、牢を脱獄した。もはや、極悪人、捕まったら確実に死罪だろう。

 もう、普通の生活には戻れない。


 そして、今、ここで、魔術と再開した。なんで忘れてしまったのだろうか。

 数年前、竜真は魔術に出会った。あの美しく、闇夜に映える青白い光。その光景はあまりにも美しく、竜真を魅了したはずだった。なのに、いつの間にかあの感動を忘れてしまっていた。


 だが、今、あときの青白い光の魔術とは異なるものの、魔術を扱える者がここにいる。何という気運か、彼女に魔術の教しえを・・・彼女?


「そういえば、名前は?」

「あたし?、あたしは葵よ。で、あんたは?」

「俺は竜真。」


 もしかしたら、あわよくば葵に魔術を教えてもらえないかと竜真は甘い考えを抱いたていた。

 あのときの、青白い光をもう一度、自分の手で作れるかもしれない。

 数年ほど前に感じた、あの感動をもう一度、見られるのかもしれないと、五年前の感動がよみがえるのだ。

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