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127あるループでの異変 天音とミカン

 多少、このループにおいて、いつもと違うことは起きたとはいえ、所詮はそれだけのこと。

 その後の歴史の流れはいつもと同じ流れへと戻ったように見えた。


 そして、時間は大海戦後まで進む。

 この時期になると、不思議なことに、この時期になると、宿屋ブルーのご主人さまは姿を見せなくなる。


 宿屋ブルーの近くにバランタインに街を一望できる広場がある。

 ある日のこと、竜真が一人で宿屋ブルーの近くを通りかかったとき、その広場で見たことがある人影が見えた。

 竜真が、恐る恐る近づいてみると、その広場にいたのは、天音だった。


「天音さん!?こんなところで何をやっているんですか?」

「・・・。景色を見てます。」


 見ればわかる。

 天音は寡黙な人だ。質問に応えてくれるが、その多くは質問の真意とずれることが多い。


 竜真は天音とは面識がある。大東道場ではもちろん、古京城でも武帝として会い、バランタインでも宿屋ブルーで一度顔を合わせ、大海戦でも顔を合わせている。


 ただ、今回のループでは、古京へと出向く際に、道に迷っている中でも天音とは鉢合わせていた。

 その偶然が、竜真に何かおかしいと、徐々に天音の異常さに気づき始めた。


 天音の異常なまでの戦闘能力、苦労してバランタインに来たのに、しれっと天音は宿屋ブルーにいたり、大海戦で海上を走る超絶技を見せたりと。

 でも、それは、天音が実は「武帝」であり、「大東道場 皆伝」だから、という一言で竜真の頭の中では解決されていた。


 けども、今回のループで偶然にも大京国で天音と出会ったこと、そして、今ここで天音と出会ったことが、天音の異常さを気づかせるきっかけになった。

「武帝」だからではとても納得できない、「人間」とは思えない異常なまでの行動・・・。


 大京国でも偶然に出会い、このバランタインで会ったことは、果たして偶然か。

 異常なまでの戦闘力、海の上を走るまでの超絶技、それは「大東道場 皆伝」で片づけてよいのか。


「天音さん、あなたは一体、何者ですか。なぜ、ここにいるのですか。」

「・・・。・・・。・・・。」


 天音は元々寡黙な人間、口数は少ない。けども、この竜真の問いへの回答には時間がかかった。


「同じ結末に飽きたから。」

「はい?、結末?」


 竜真は二つの質問をした。その回答はおそらく後者の質問、けども竜真に回答の意味は理解できなかった。


「竜真さん、あなたは、葵さんに好意を寄せてますね。」

「は、はい!?、いきなり何を・・・。」


 天音は突然に話題を変えてきた。


「これを。・・・餞別です。」 


  天音は橙色の果物を竜真に渡した。それは紛れもなく、大京国のミカン。

 ミカンは葵の好物なのだ。いつも、大京国では手に持って頬張っていた。


「渡してあげてください。そこにいるので。」


 天音は、「そこにいる」と言った。

 竜真がとっさに振り返る。


「ふぁ~っ。」


 そこに大きなあくびをしながら、こちらへと歩いて来る葵がいた。いつの間に?と思うと同時に、今やり取りを聞かれてないかと急に顔面が赤くなる。

 けども、葵はちょうど今、ここに来たという感じだ。今のやり取りは聞かれてないようだ。


「おい、葵。大きなアクビするな。ほら。」


 竜真は葵へミカンを投げ渡す。


「何これ?橙色の果物。」

「いやいや、葵、ミカンだぞ!?、大京国にいたときにいつも食べてたじゃないか?」


 ミカンは葵の大好物だ。なのにまるで葵はミカンを知らないかのように、橙色の果物と言った・・・。あれ・・・。ちょっと待て。


 確かに葵はミカンが好きだったはず。隠れ家でも食べていたし、大京国での魔術修行でもヒマがあれば、冬の果物であるはずだというに、どこからともなくミカンを取り出しては、片手で食べていた。


「何言ってるの?あたし、ミカン?なんて果物、食べたことはないわよ。」

「は?」


 竜真はもう一度過去を振り返る。脱走したとき、魔術修行をしたとき・・・あれ?、確かに、葵はミカンを食べてない。すると何だこの記憶は?


「天音さん??」


 竜真が天音の方へと振り向くも、すでに広場の人ごみに消えていた。

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