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125間章 宿屋ブルー

 時間遡行魔術、時間を戻す魔術であるが、使用した術者の記憶すら時間遡行するので、本来は術者すら気づかずに時間を遡行する。

 そこに空間転移魔術を併用することで、葵は、記憶を保ったまま自身は時間遡行魔術をの影響を受けずに、世界の時間を遡行させた。

 すると、不思議なことに、時間遡行によって過去の時間から遡行した葵と、空間転移でその場に留まった二人の葵がいるという状態が起きるのだ。


 すでにこのループに陥ってから何度もループを経過している。

 最初は、自身が葵であることを明かした。だが、毎回ループでバランタインへやって来る竜真は、半信半疑だ。

 今は、何度も時間をループし、時間が経過した今は、年々、老化が進んでいる。


 その姿は、もはや、ループの度に現われる若い葵とはとても似つかない。

 だから、「葵」と名乗ることをやめた。


 そして、自ら建てた宿屋ブルー、そこに禁忌という名のルールを作り、従業員たちへはご主人様と呼ぶように無理やり仕向けた。

 それこそが、四つ目の禁忌、葵が自身の「葵」という名前を竜真から隠すために作った禁忌だった。


 とは言っても、どこかで、気づいてほしいという想いが残ったのだろう。


 竜真に会うために、店を作った。宿屋「ブルー」だ。

 宿屋でもあり、昼間はおいしい料理を提供するレストランだ。

 店の名前は当初、宿屋「葵」などと考えたが、あからさまにバレるのは問題なので、わからないように別の名前にしたつもりだった。

 ところが、葵、あおい、青い、ブルー、と心の底には気づいてほしいという想いがあったのだろう、なんとも短絡的な名前になってしまった。


 場所は、必ず竜真たちが訪れるであろう場所の近くの空き家を借りた。

 その場所は、竜真たちバランタインに来た直後に、必ずトラブルを起こすレストランの近くである。

 例の魔術が暴発する直前の時間にも、確実に竜真はそこにいた。


 だから、どうか、そのタイミングに竜真が来ないようにと願った。

 もし、そのタイミングに竜真が来なければ、あの魔術に竜真が巻き込まれることはないのだから。


 だが、結果として、竜真は期待を裏切って宿屋ブルーにやって来る。

 例の大海戦後には、大京国に戻れと言っても、それでも宿屋ブルーに竜真はやってきた。


 一度や二度ではない。必ずこのタイミングで竜真は戻ってくる。

 もう、ここまで来ると、歴史が変わることはない。

 葵、こと、宿屋ブルーのご主人様は、この時期になると決まって自室に引きこもった。会うのが辛かった。

 この先の変わらぬ未来のことを想えば、辛くなるのだ。


 自室に引きこもり、泣いた。

 すぐそこに、竜真がいるのは、周囲の気配や、聞こえてくる会話などからわかった。

 会えば、おそらく泣くだろう。そんな姿を竜真に見せる訳にはいかなかった。

 だから、竜真には会わずに、自室でこっそりと泣いていた。


 自室を出て、レストランのほうへ向かう。すると、ちょうど一人の客がテーブルに座っていた。


「・・・。」


 ふと、レストランにいた客がご主人様へ顔を向けた。

 天音だ。大京国、武帝、スパイなのだろうか。どうやってここまで来たのか、よくわからないが、ときたま、レストランに姿を現わしていた。


「何か用か?」


 この天音という人間も、時間遡行か、空間転移の魔術を使ったのか、詳しくは不明だが、繰り返す歴史のループの中でも、記憶を持ち、世界が同じ時間をループしていることを知っていた。


「・・・また、失敗したのですね。」

「ふん、用がないなら、帰れ。まったく毎度毎度、何しに来くるのか。」

「・・・何度も同じ光景を見ると飽きます。」

「うるさい。儂とて、好きで同じ光景を見てるわけじゃない。」


 天音、なんとも不思議な女だった。原理はわからないが、ループの中でも記憶を持ち、時たま宿屋ブルーにふらっと寄ってはご主人様と会話をかわした。


 気づけば、もう、天音の姿はない。


 毎回、毎回、そんな感じだ。

 最初こそ、あれやこれやと竜真に向けて、時間遡行をさせないように努力したが、結局、運命は変わることはない。そうして、ときたま宿屋ブルーにやってくる天音と他愛のない会話をしてループは終わっていく。


 何回繰り返したか。最初は数を数えていたが、途中で数を数えることをやめた。

 毎回、毎回、やっていると、徐々にルーチン化し、対応の方法も、徐々に手抜きになってきた。


 それでも、あきらめる気はない。


 だが、どんなに繰り返そうとも、結局運命は変わらない。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

次章でこの作品については最終章となります。

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