121竜真を救え 2回目
「はっ、ここは?」
ふと気がつき、葵は目を開ける。
「地下の広場・・・。?」
そこはいつものガーデンの地下の広場だった。
「たしか、モルトの神撃によって、あたしは死んだはず・・・。」
だが、生きている。
ということは、竜真に「時間遡行魔術を使うな」と言ったはずだが、時間遡行魔術を使ったということか。
ともかく、確認が必要と思い、葵はガーデンの外へ出ようとする。
ちょうど地下の廊下を歩いていると、ちょうどグレンと鉢合わせになる。
「うん?貴様、見かけぬ顔だが・・・何者だ。」
「え、えっと、ちょっと、ジョセ=ローゼズ女史にお呼ばれしまして、ちょっと道に迷いまして・・・。」
グレンは、葵を見つめて訝しむ。
グレンは明らかに葵のことを認識できていない。
「あの、ちょっと、つかぬことをお聞きしますが、今は、何年の何月何日でしょう?」
「あぁ?、今日は、バランタイン歴二千五百三十四年、二月五日だが。」
「あら、やだ。あたしったら、お呼ばれしていた、日付を間違えたようだわ。ウフフフ。」
葵はグレンと地下の廊下で出会ったことでまさかとは思った。
会話もまったく同じ。念のため、日付を聞いてみるも、それは、前回とまったく同じ日だった。
間違いない。
誰かの魔術により時間遡行したのだ。そして、その犯人もおそらくは目星はついていた。
やはり「時間遡行魔術を使うな」と言うだけではダメだったのだ。
葵は、適当に、ウフフフ、上品な微笑みを返しながらも、グレンの脇を通り過ぎようとする。
だが、
チン!
そこに、グレンが剣を抜刀し、横を過ぎようとする葵の目の前で、地下道の壁に剣を突き刺した。
前回とまったく同じだ。
「待て、女。貴様の身分を聞かせてもらおうか。」
「えぇ、えっと・・・そのぉ・・・」
前回とまったく同じとあれば、対処も前回と同じで何も問題ない。
前回と同じく、葵は、グレンが突き刺した剣の下をくぐり、ガーデンから逃げ出した。
そして、再び、竜真と葵の二人がバランタインに来るのを待つ訳だが、二人は前回とまったく同じ時間に、レストランで騒ぎを起こしていた。
葵は、二人を取り囲んでいる取り締まり部隊のリーダ格の男に高額紙幣を手渡し、前回と同じように、二人を喫茶店に連れ、自身の正体と、これから起きる事象について説明する。
前回は、「時間遡行魔術を使うな」、と言ったが、それがまずかったのだろうと反省する。
なぜなら、時間遡行魔術を竜真が使うのは、モルトが神撃を放ってから百年以上先だ。忘れるに決まってる。
だから、言い方を変えた。
「竜真、この先、葵は死にます。けども、それは運命。助けないのでいいのです。」
そう、竜真はあたしを助けようと、あの百年近くの歳月を努力に費やした。
だから、あたしのことは忘れろと言った。葵を忘れれば、竜真の努力は不要になる、と考えたはずだった。
けども、竜真からの反応は予想と反した。
「話はよく理解できませんが、あなたは、葵とよく似てます。仮にあなたの話が本当で、未来から来た葵だったことも信じるとします。そうだとして、どうして、死んだ葵を見て、放置しろというのですか?そんな残酷なこと、俺にはできません。自分が本当に時間遡行魔術を使うかわかりませんが、もし、葵を助けるという手立てがあるというなら、俺は手段を選ばず、葵を助けます。」
「竜真・・・」
竜真の隣のこの時代の葵が赤くなっていた。自分もそんなことを言われ、嬉しかった。だけど、それではダメ。
「助けたいのはわかりますよ。だけど、それでは竜真の体が持たない。」
「構いません。すいませんが、まだ、自分があなたが未来から来たというのもまだ半信半疑なんです。将来、その様なことが起きることは分かりました。気を付けます。気を付けますが、自分に葵を助けるな、というのは無理です。すいませんが、お引き取りください。」
浅はかだった。確かに竜真のことを考えれば、当然、葵を助けるだろうし、葵を助けるなと言っても、素直に聞くわけがないのだ。
葵はその後の様子を見守るも、その後は前回とまったく同じだった。
二人は、ガーデンの兵の募集に申し込み、特別部隊に採用された。
グレン、魔女、バレルに出会い、修業し、大海戦に参戦し、敗戦する。
そして、例のパーティの日を迎え、ついに、モルトが絶魔終滅魔術、神撃を発動させてしまう。
それによって、この時代の葵は竜真を庇い死んだ。
そして、葵自身も巻き込まれて死んだ。
結局、何も変わることはなかった。