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118時間遡行 その1

 葵は考えた。どうすれば竜真を助けられるか。

 無限に続くループから救い出すことができるかと。


 葵の取った手段は、自身も時間遡行魔術により、竜真が初めて時間遡行魔術を使用した時間へと戻り、竜真を止めること。


 竜真の発動させた時間遡行魔術が完璧ではないことにはすぐに気が付いた。


 魔術の天才は一つの結論を導いてしまう。

 時間遡行魔術を完璧にするにためには、記憶を保持する必要があるのだと。

 そのためには、同時に空間転移魔術の同時併用により、自分自身は時間遡行の影響を受けることなく、その場に留まることが必要であると。

 自身が時間遡行の影響を受けないことで、少なくとも、記憶を掌る脳だけは、記憶をその場に留めることで、記憶を保持したまま時間遡行ができる、という結論に行きついた。


 時空遡行魔術は、過去の時間に戻すという魔術であるが、その本質は物質を構成するモノを過去の時間に定着させるという魔術だ。

 世界のあらゆる物質は原子、陽子、電子といった粒子で構成され、その粒子単位で過去の時間へと戻す。

 一方、人の記憶の正体は、脳の中でも海馬と呼ばれる器官に蓄積された原子、電子などの配置状態によるもの。

 時間遡行魔術を使用すれば、これすらも、過去の配置に戻り、記憶すらも過去へと戻ってしまう。


 だから、竜真は失敗した。


 失敗したことすら気づかずに、永遠のループに身を投じてしまった。

 本来は、空間転移魔術と併用すべきだった。時間遡行魔術の中でも、少なくとも記憶を司る脳だけはその場に留まるように自分自身を空間転移させることで、時間遡行しても、自身は記憶を維持することができるはず、という理論だ。


 葵は、魔術に関しては天才だった。

 バランタインのジョセ=ローゼズ女史、魔術に関しては、彼女が最高と言われていたが、それをも超えるの天才であったのかもしれない。

 天才魔術師、葵が解き明かした、魔導書にも記載されてない魔術理論だ。


 だが、欠点はある。時間遡行により時間が戻り、その分若返る。だが、空間転移魔術を併用した自分はわずかながらに齢を取ることになる。

 空間転移させた部分は、時間遡行をしないので、その分の影響が現われてしまうのだ。

 一度や二度程度であれば、気になる程度ではないだろう。だが、無限にループするとなれば、皆が若返る中、一人、更けていくのだ。


 でも、それもどうでもよかった。それで竜真を、無限に続くループの中から救うことができるのなら、まったく悔いはない。


 葵は、決心する。

 何も気づかずに永遠のループに陥った竜真を救うため、時間遡行魔術により、竜真が初めて時間遡行魔術を発動させたときに戻りながらも、自身の全身に対し、空間転移魔術を施すのだ。


「時間遡行魔術・・・空間転移魔術・・・。」


 葵の体を青白い光が包み込み、だんだんと光が吸収されていく。


 成功だ。


 天才の葵にとっては、時間遡行魔術と空間転移魔術の同時発動するなど、たやすいことだった。

 竜真が百年近くの歳月をかけたことを葵は、わずか、一瞬で成した。それが葵の才能だ。


 周りの風景が、時間を巻き戻すように動いていく。

 人の会話、人の流れ、朝昼夜、天気、あの大海戦から、大京国での牢獄生活といったものが、逆再生されていくというのに、自身の体だけは、その場に留まったまま。


 幾度となく逆再生される風景は、何度も何度も同じ風景を繰り返す。

 すでに竜真が最初に時間遡行魔術を発動させてから、かなりの回数が経過したのだろう。


 これほどの間、歴史は無限にループしていた。何も竜真は知らずに、この繰り返しをしていたのだ。

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