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117完全予知魔術、プレディクション その3

 竜真は、魔導書の中から、時間遡行魔術の項目を見つける。


「えっ、まさか・・・。」


 葵は、竜真が何を考えを読みとった。時間遡行魔術で時間を取り戻そうと考えたのだろう。


 もう、葵には、当初の目的の時間遡行魔術を使った犯人探しなど、どうでもよくなっていた。


「でも、竜真の気じゃ無理よ。」


 そう、竜真では無理だ。禁術を発動させるほどの気を竜真は持ち合わせていない。


 竜真はガーデンの残骸から、魔導図書館で時間遡行魔術の情報を探す。そして、時間遡行魔術を発動させるも、とても発動できるわけがない。


「葵・・・。」


 竜真はぽつんと一人しかいない広場で言葉を漏らした。


 その日から、竜真は気の錬成に励んだ。時間さえされば、気の錬成にすべての時間を費やした。

 孤独で途方もない竜真の努力の日々が始まった。


「竜真・・・。」


 葵は、ただただ、ひたすらに気の錬成に打ち込む竜真を完全予知の魔術で見続けた。


 一日経過しても、三日が経過しても、一週間が経過しても、一か月経過しても、一年が経過しても、竜真はその努力をやめなかった。

 いい加減に諦めると思っていた。けど、竜真は諦める素振りを一切見せない。


「はぁ、はぁ・・・」


 葵は、息を切らす。

 当然だ。一年以上も先の未来を魔術、プレディクションで見ているのだ。

 天才魔術師といっても気は有限だ。


 葵は、プレディクションで完全予知できる範囲を、竜真の周囲に限定した。それにより、さらに長い未来を完全予知していた。さすが、葵にしかできない芸当だろう。


 だが、そんなことは葵にはどうでもよかった。


「竜真・・・もう、いい。お願い、お願いだから止めて。」


 息を切らしながらも、葵は泣いた。何年にも渡って、ひたすらに気を錬成し、努力を重ねる竜真。


 葵は完全予知魔術、プレディクションで竜真のその後を見続ける。

 一年後、三年後、十年後、おじさんになり、気づけば、すでにしわしわのおじいちゃんだった。それでも竜真は努力をやめない。


「竜真・・・あたしのことは、もう、いいから。竜真が幸せになって・・・。」


 悲痛な叫びだった。竜真はなおも努力し続ける。


「はぁ、はぁ・・・」


 そして、葵自身も気の限界が訪れようとした。それでも葵は、体の隅に余る気をかき集め、竜真のその後を見続ける。


 ついにその時が訪れた。


 バタン!


 竜真は倒れた。百年以上の幾星霜が経過し、ついに竜真に寿命が訪れた。

 だが、そこから竜真は、生命そのものを気に変換し、気を放出する。


 とてつもない量の気が滝のように溢れ、バランタインを包み込み、海を超えて、世界を包み込み、そして、宇宙、万物を包み込んだ。


 とても今までの竜真では出来なかった芸当だ。竜真が百年以上の幾星霜をかけて努力をしたその成果だ。

 竜真は時間遡行魔術を発動させた。


 そして、竜真は自身が時間遡行魔術を発動させたことさえ忘れ、永遠の時間ループが始まったのだ。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・うっ・・・」


 葵は息を切らす。体中から汗が吹き出る。それでも、なおも、さらにループする未来を予知する。だが、それは、これまで見た時間とまったく同じ時間が永遠にループするだけ。



 葵は、真実を知ってしまった。

 この違和感、デジャブは確かに、時間遡行魔術によるものだった。

 そして、時間遡行の魔術を使った犯人と、自身の死を知ってしまった。


 なんということか。


 バタン!


 葵はその場に倒れた。完全予知魔術、プレディクションを使いすぎて、自身の気の限界を超えた。

 葵は倒れるまで、幾度となく繰り返す歴史をプレディクションで見た。

 自身の気が持たなくなるまで、百年以上先の未来を予知した。

 そして、どのループでも、竜真は、自分のために、葵のために、素質がないと言わた魔術を、自身の全人生をかけて克服し、このあたしを、自分を、葵を救おうとしてくれた。


 何回も、何回も、何回もだ。

 竜真は気づかない。この歴史が何度となく繰り返されているということに。



 泣いた。

 葵は、倒れたまま、天井を見ながら、泣いた。

 こんな自分を、幾度となく、何度も何度も何度も助けようとしてくれる竜真のひたむきな姿に涙を流した。


 竜真は時間遡行に気づいていない。何度も何度も何度もループを繰り返すも、竜真は気づくことなく、葵を救おうと何度も、百年の幾星霜の時間の努力を費やし、時間遡行魔術を発動させた。


 竜真は自身の人生を犠牲にしてまで、あたしを助けようとしてくれた。


 葵は決心した。

 何としても、人生を犠牲にしてでも、竜真を救おうと。

 これまで、寂しい人生だった。両親がなくなってから、話相手などいなかった。会話があっても、あくまでも仕事での会話。そこに偶然と、竜真が来てくれて、自分の人生は大きく変わった。


 あたしの人生に、悔いはない。


 だから・・・あたしは・・・すべてをかけて・・・竜真を救う!


 今、ガーデンの地下の広場で一人の少女が涙を流していた。

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