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116完全予知魔術、プレディクション その2

 葵の脳裏には、一秒先、二秒先から、一日先、二日先と未来の映像が映る。

 その間にも魔術プレディクションは葵の気を消費する。葵の額には汗が垂れる。


 葵の脳裏に浮かぶ映像は、ついに、モルトがガーデンでパーティを開催する日の映像となる。


 竜真と葵は、護衛としてパーティに参加するも、任務より、高級な食事やスイーツを頬張る様子が映る。自分自身でありながらも、その様子は恥ずかしすぎる。


 モルトが絶魔終滅魔術を発動させるも、魔法陣が発動することなく、失敗する。

 当然だ、葵が魔法陣の模写を手抜きしたのだから。


 そして、ついにモルトに竜真と葵の正体がバレた。脳裏の映像は逃げる竜真と葵を映す一方で、モルトは再び別の手段で絶魔終滅魔術を発動させてしまう。


 バランタインの至る所で、民たちが気を吸収されてその場にうずくまる。

 民から気を吸収した赤黒い球体は、ついに、バランタイン全体を覆い、不気味な赤黒い闇夜となる。


 それまで賑やかだったバランタイン。

 突然と音はなくなり、海の音、風の音だけ。バランタインの至る所に飾られた花は、突然にしおれた。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・・・


 どこからともなく聞こえる鐘の音。バランタインに昔からある教会の尖塔にある鐘が鳴りはじめた。


「まずい!、逃げるぞ。」


 何かに気づいた竜真が、葵の手を引き、その場を逃げた。


 他の兵たちも、皆、逃げ始める。

 パーティ会場にいた貴族もみな逃げ出し、全てがパニックの状態だった。


 そんな中、ついにガーデンの宮殿の上に浮かんでいた赤黒い球体が爆発した。


 竜真が葵の手を引いて逃げる中、赤黒い高エネルギーに完全に包まれる。葵は何重にもシールドを構築するも、次々と破壊されてしまう。

 そして、ついに、最後のシールドすらも破壊され、竜真と葵は、赤黒い高エネルギーに飲み込まれてしまう。


「う、嘘でしょ・・・。」


 脳裏に浮かぶ映像を見ながらも、葵は思わずつぶやいていた。

 気の消費が大きい。額、首には汗を掻いている。


 そして、葵は見てしまう。竜真を助けるため、魔術、「絶守」を発動させる自分。

 それにより、竜真だけは守ることができたが、自身は高エネルギーの中に埋もれ、すべて焼け焦げていく。


「ありえない・・・。」


 次に脳裏に見えた映像、それこそが、毎回、デジャブとなって葵の脳裏に浮かんでいた映像だった。


 脳裏に浮かぶのは崩壊した世界だった。白と黒だけのモノトーンの世界に、黒い雨が降り続ける。

 見渡す限り、白と黒の世界。バランタインの島だと思われるが、そこに街はない。その代わり、目下には瓦礫だけが一面に広がっている。

 よく見れば、その瓦礫すらも、高熱で溶けたかのように、クリーム状に溶けだしたものが凝固していた。

 それはガーデンと呼ばれる宮殿があった山なのだろうか。木々はすべて灰になり、瓦礫だけになった山のふもとに、下を向き佇むだけの男がいる。

 どこか遠いところを見つめたまま、動くことはない。

 生きているのか死んでるのかすら、わからないが、その男が手に握っているのは、人型をした黒い物体。

 いや、それは、葵自身が真っ黒に焼け焦げた死体だ。

 ふと、男の顔が少しだけ、こちらに向けられると、その男は竜真であることがわかった。

 完全に生気を失い、ただただ遠い一点を見つめるだけ。

 一切動くことなければ、生きているのは、死んでいるのかさえ分からない。


「嘘だ。う、嘘でしょ・・・。竜真?」


 脳裏に浮かぶ光景に再度、再び声が漏れる。


 そのまま一日経過するも変わることはない。二日経過しても、三日経過しても、一週間経過し、二週間が経過しても何も変わることはない。


「竜真・・・。」


 死体の様にまったく動かない竜真を心配した。

 様子が変わり始めたのは、三十七日目。


 竜真が佇む前に小さな広場が作られ、たき火する人たちが現われ、テントを張って住み込む人が現われる。

 どこで拾ったか、打楽器を持ってきては、音を奏でるが、とても音楽とは呼べない。

 それでも、日に日に楽器が修理され、新たな楽器が持ち込まれ、人々は音楽を奏で、踊るのだ。

 絶望しかないこの世界で、人々は希望を持っていた。


 だというのに、竜真だけは何も変わることはなかった。


 ある日、老人が竜真に橙色の果実を竜真に持ってきた。

 それは、葵の好物のミカンによく似ている。

 竜真はそれをしばらくの間見つめているだけだったが、竜真はポツンと独り言を話す。


「葵・・・。」


 その言葉だけで、葵自身、今、竜真が何を考えているのか、手に取るように分かったし、それがとてつもなく嬉しかった。


 ある時、竜真は突然に立ち上がる。

 何かを思い出したかのように、それまでの死んだような目とは思えない、生き生きとした目をしている。

 竜真は、振り返り、葵の真っ黒になった灰を見つめた。

 何かを見つけたのか、灰の中から魔導書を見つける。


「あ、それは・・・」


 葵も覚えがあった。

 その魔導書は、葵が時間遡行魔術について調べていたときの魔導書だ。

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