114六億五千五百三十五万とんで一回目の奇跡
はて、この世界で、何回同じ時間がループしたことか。
ノイズによって葵が何かを気づくことはあれど、決して、この世界がループから抜け出すことはなかった。
そして、実に、六億五千五百三十五万とんで一回目である。
ここは、魔導図書館、竜真と葵は、魔法陣の原理でもある魔導回路についての調査をしていた。
これは偶然だったのだろうか。
葵が、時間遡行魔術の存在に気づき、誰かが魔術を発動させた影響ではと推測した状況とまったく同じ状況だった。
葵は、書棚の前で本をパラパラめくっていると、突然に違和感を感じた。
「うっ・・・」
そして、以前の状況と同じように、頭痛に襲われ、その場にうずくまるのだ。
脳裏に浮かぶのは崩壊した世界。白と黒だけのモノトーンの世界に、黒い雨が降り続ける。
瓦礫だけになった山のふもとに、下を向き佇むだけの男がいる。
どこか遠いところを見つめたまま、動くことはない。
生きているのか死んでるのかすら、わからないが、その男が手に握っているのは、人型をした黒い物体だった。
ふと、男の顔が少しだけ、こちらに向けられると、葵は気づく。その男は竜真であると。
葵の脳裏に浮かんだ風景、それは、これまでのループとまったく同じもの。
葵は、その脳裏に浮かんだ風景を何度も見た気がするのだが、それが何であったまでは思い出すことができない。
「おい、葵?、葵!」
その後、うずくまる葵に気づいた竜真が葵に話かけるが、その状況はかつてとまったく同じ。
「だ、大丈夫、ちょっと貧血気味でね・・・。」
と適当に竜真を誤魔化すも、自身で言った言葉すら、以前とまったく同じことを言った気がしてならない。
葵は、今の現象について考えながらも、目線が禁書庫へと向く。
そして、二人は禁書庫にへと入り、葵が時間遡行魔術について書かれた魔導書の存在に気づく。
そして、葵は再び、仮説を立てた。
誰かが、時間遡行魔術を使った。そして、何度も同じ時間を繰り返し、ノイズなどで、その一部の風景が脳裏に浮んだのではないかと。
実に前回の状況とまったく同じ状況である。
そして、残念なことは、葵は、この仮説に半信半疑であることすら、まったく同じだった。それに確信を持つほどの、確証がないのだ。
だが、六億五千五百三十五万とんで一回目のループ、ここから前回の状況とは違った。
(前にも、まったく同じ仮説を立てたような・・・。気がするなぁ・・・。)
葵は、一つの仮説を立てるも、自分が仮説を立てたことすら、以前に経験したデジャブを感じた。
以前にもまったく同じ経験をし、まったく仮説を立てた、という気がしてならない。
パタン、と葵は開いていた魔導書を閉じ、目をつぶった。
葵は心の中で思った。
いったい、このデジャブは何なのか、そして、以前にも何度も見ているこの風景は何なのか。
少なくとも何かがおかしい、この世界で何かが起きているのは間違いない。
葵の立てた「誰かが、時間遡行魔術を使った」という仮説は、仮説を域を出ないまでも、この世界で何かが起きているということについては、確信をした。
葵は、この違和感を感じながらも、世界で何が起きたかを突き止めようとした。
後日、竜真の目を盗んでは、こっそり禁書庫に鍵を開錠し、忍び足で禁書庫に通い詰めた。
仮に、葵の立てた仮説が正しく、誰かが時間遡行魔術を使ったとすれば、未来に時間遡行魔術を使う者が現われるはず。
一つの仮説を元に、その仮説を検証するための魔術がないかと、禁書庫中を調べていた。
そして、魔術の天才、葵は、ある日、魔導書を調べていると、あるページで手が止める。
その魔導書のページには、『完全予知魔術、プレディクション』と書かれたていた。
以前、ジョセ=ローゼズ女史、葵がおばあちゃんと呼んで親しんでいる魔術師に教えてもらった魔術でもある。
葵は思った。その魔術を使えば、時間遡行魔術を使った犯人が分かるのではと。