112五万千二百二十四回目
その後も、不定期にノイズがやってきた。
そのたびに、魔術への感性に強い葵だけが反応していた。
だが、いずれも
「あれっ、」
と気づく程度で、違和感に気づいた葵も、結局は気のせいではないかとスルーしていた。
だが、それが何度も起きれば、いつもと違う反応を示したりすることもある。
五万千二百二十四回目、それはちょうどモルトの演説を聞いているときであった。
「だが、しかしだ。隣の国が敗戦したことを、我々は深く考えなければならない。今回、攻め込んだのは小さな島国。我々に比べれば、はるかに劣り、文化も未開のサルの住む国と思われていた・・・・・・。」
竜真と葵はモルトの演説に耳を向けていたが、ふいに突然、葵に頭痛が襲う。
ふと、気づけば脳裏には崩壊した世界が浮かんでいた。白と黒だけのモノトーンの世界に、黒い雨が降り続ける。
「あれ、これは・・・前にも・・・」
葵は、脳裏に浮かぶ世界を見ながらも、以前にも見た気がするという、デジャブを感じていた。
瓦礫だけになった山のふもとに、下を向き佇む男がいる。生きているのか死んでるのかわからないが、その男が手に握っているのは、人型をした黒い物体だ。
ふと、男の顔が少しだけ、こちらに向けられると、その男は竜真である。
そこで、はっ、我に返る。
「・・・・・・攻めに来ると分かっている敵に、それをまじまじと待っているか。否だ!ならば、先制して低俗なサルどもを仕留めようではないか。先の海戦で疲労している今、その背後を、我がバランタインが狙おうではないか。」
気が付くも、モルトの演説は続いていた。どうやら自分だけが意識が遠のいていたようだ。竜真も特に気づくことなく、モルトの演説に耳を傾けていた。
さて、今のはいったい何であったか、以前にも何度か、同じような風景を目にした気がするのだ。
葵は、それが何であったのかを思い出そうとするも、まったく思い出すことができないまま、気が付けば、モルトの演説が終わっていた。
「すごいな。モルトのカリスマ性とでもいうのか、民衆は、話の内容などまともに聞いてなかったな。まともな人間がいれば、内容がおかしいことに気づくだろうに。」
「それよりも、兵器ね。バランタインに研究所があるなんて聞いたことなかったわ。」
竜真と話をしながらも、葵は宿屋ブルーの方へと歩き始めていた。
何か、思い出せそうで、思い出せない。のど元まで出ているのに、手が届かない、そんなもどかしい想いを感じながらも、葵は竜真と宿屋ブルーへと戻るのだった。
五万千二百二十四回目のループ、今までにないほど、惜しい展開となるも、結局は葵は何も思い出すことなく、いつもと変わらないループを繰り返す。
そして、世界は崩壊し、竜真は時間遡行魔術を発動させた。