109ループ:5剣術修行への出発~108努力の軌跡
そして、竜真は十五歳を迎え、成人した。
実は竜真は幼き頃から剣術道場に通っていたのだ。それなりに剣術の腕は良く、右に出る者はいないほど。その力量を認められ、剣術の名門、大東道場へと剣術修行へ旅立つことになったのだ。
そして、大京国の首都、古京へと行くべく、街道を進んでいたはずだったのだ。
そう、はずだったのだ・・・。
基本的に大京国への中心地、古京へ行くのであれば、主要街道をまっすぐに進むだけ。
主要交通路で、商人や旅人など人通りも多い。
地図を持たなくとも、迷うはずがない。
だが、竜真は超がつくほどの方向音痴だった。
気づけば、街道はおろか、道すらなくなり、草藪の中をかき分けている。
ふと、そこへ、お天道様の思し召しなのか、獣道ぐらいの小さな道が現れる。竜真はこれこそが古京へと続く道と、意気揚々と進むこと、約半刻。建物が見えるようになる。
村だ。
「おいっ」
・・・途中省略・・・
そんな時、竜真を縛る縄を引っ張る者がいた。
いつも端っこにうずくまっていたフード付きのローブを着ていた人である。
「しっ、隣に座って」
小さな声で囁かれたが、その声は間違いなく女性の声である。
言われたように、彼女の隣に座る。
「気づかれないように聞いて。」
竜真はごくりと頷く。
「脱走するわよ。」
「えっ」
竜真は静かに小声で返す。
「いい?罪人を刑場へ連れていくだけ、そこにいる監視の兵士が一人だけになるの。そこを狙って脱走するわよ。」
「ちょっと待て。確実にバレるって。」
「バレても、ここにいてもどうせ死ぬのよ。だったら、一か八かで脱走するしかないでしょ。あんた、魔術が使えるのよね?」
竜真は横目で、彼女の横顔を見る。薄暗い牢獄で、フードをかぶっているので顔はよくわからない。だが、黒髪で竜真と同じくぐらいの年齢だ。
・・・途中省略・・・
竜真と葵は、泳いで岸につき砂浜に立った。すぐ隣に港が見え、真正面にはどこまでも続く大海洋だ。
大海洋にはいくつもの大きなが花が海面に浮び、その奥には大きな黒船が浮かんでいる。
あの水平線の奥から来たんだと感慨深く思うのだ。
「来てしまったんだな・・・。」
葵も真正面の大海洋を見つめる。葵もびしょ濡れの衣の裾を絞っていた。
「そうね、来てしまったのね。ここがバランタイン国。」
浜辺に木の枝があったので、そこに濡れた衣をかけて乾かした。当然、ふんどし姿になるわけで、竜真はよくても葵はそうはいかない。浜辺の奥に茂みあったので、葵はそこに隠れて木の枝に干していた。
「こっちに来たら魔銃でぶっ殺す。」
と竜真に言っていたが・・・
茂みのほうに目を凝らすと、茂みの奥が見えそうで・・・見えない。透視という魔術はないものかと思案する。
「おい!!」
茂みから葵が大きな声を出してくる。
「こっちの方向を向いてもぶっ殺す!」
・・・途中省略・・・
やがて、視界が開けた。
出た場所は崖の上のようだ。眼下には崖下に広がる村が見えた。それは、一見、村に見えた。
けども、村というよりも瓦礫の散乱した場所に、ビニールを張っただけのテント、そんなのが寄り集まり、集落を成していた。
視線をずらすと、頭上には、ガーデンと呼ばれる島の中心部に聳える城。至る所を花で飾られた美しい城だ。
だが、その城からは、黒緑色の液体が絶えず流れ続け、崖下の村へと流れていた。
城からは次々と、ゴミが投げ捨てられ、崖下の村に山を作っていた。遠目から見ても、大量の羽虫が湧いており、お世辞にも衛生環境がいいとは言えない。
「これは!?」
「名もなき村、ガーデンのゴミ捨て場ね。崖下へ下りましょう。」
バランタインの北側の名もなき村。人はいるが人々みな死んだ目をしていた。
そこには、花どころか、草木さえ一つも生えてない。
「うぅ・・・えぇ・・・うぉ・・・」
そこから、聞こえるのは音楽ではなく、付近から住人のうめき声だった。
「歌歌い病ですね。不衛生な食事を取り続けると発症する、この村独自の風土病です。うめき声が歌を歌っているように聞こえることから、この名がついたとか。」
「皮肉だわ。」
・・・途中省略・・・
艦艇が消滅していた。
「えっ、な、なにこれ。」
声を発したのは葵だ。二人ともずぶ濡れなりながら、海上を漂う艦艇の破片にしがみついていた。
そこに今まで竜真たちが乗艦していたはずの艦艇の姿はなかった。あるのは、海上に魔導砲が通過したと思われる軌跡に沿って、半円状の一直線の「道」だった。
道という表現は正しくないかもしれない。一瞬だけ魔導砲の軌跡に沿って、一直線の半円状に海水が消滅していた。だが、それは一瞬の間。直後に、海水が消滅していた半円状の部分へどっとなだれ込む。
消滅したのは先ほど竜真たちのいた艦艇だけではない。
半円状の一直線の「道」に触れるているもの、例えば、他の艦艇の船首や船尾なども綺麗に消滅していた。
しばらくすると、船体の大部分を消失した艦艇は海面下と大きな音を立てて沈没し、その時の衝撃で大きなうねりが起きる。
・・・途中省略・・・
「畜生!」
竜真は、叫びながらも全力で、葵の手を取り、斜面を下る。
斜面を下りながらも、また、一つとシールドが砕け散る。
「竜真・・・もう一つ作戦があるわ・・・。」
突如、葵は竜真に抱きついた。
竜真には、訳が分からなかったが、それどころでない。葵の抱きつかれたまま、全速力で斜面を下る。
その間にも、葵のシールドはまた一つ砕け散る。
「絶対防御魔術、『絶守』・・・。」
魔術、『絶守』、絶対に守りたい物をあらゆる攻撃、魔術から確実に守るという究極の魔術。古代魔術の一つであり、禁術だ。
葵は、こっそりと、禁書庫に出入りしていた。そこで、身につけた魔術の一つ。
だが、注意しなければなければならない。この魔術が適用されるのは、あくまでも守りたい対象でしかない。自身は、対象には含まれない。
「あたしね、竜真と出会えて良かった。あたしさ、両親がいないから孤独って話したっけ?だから、竜真に出会えて、嬉しかった。」
葵は、竜真に話しかけるも、竜真には、この斜面を全力で下ることに集中している。
葵の構築したシールドも、また一つと砕け散り、残り一枚を残すのみ。
「竜真と旅できて楽しかった。これでも、あたし、結構竜真に感謝してるのよ。だから、あなたには生き延びて欲しい。」
・・・途中省略・・・
例の事件から十四日が経過した。
連日の黒い雨の影響なのだろうか。
山のふもとにいる男が手に握っていた、黒い物体が形もなく音もなく崩れ去った。
その跡には、黒い灰が人型の形をして残っていた。
山のふもとで佇むだけの男は、握るものを失い、手をダランと下げる。
バランタインは未だ一面が白と黒のモノトーンの世界。
男は握るものを失いがらも、元々街があったと思われる場所の一点を見つめるだけだった。
男はまだ生きているようである。
・・・途中省略・・・
竜真は、体内の気の流れを意識した。体内を流れる気、それは、体の外へと漏れだし、意識の混濁と引き換えに、ますます量は増えていく。
最初はこの洞窟内へと気は漏れ出し、さらに洞窟の外へ、さらに、竜真の気の流れは復興したバランタインの街中、港町へと届き、海上にまで届く。
その気の量は膨大なもの。
人には必ず「気」というものは存在する。だが訓練をした魔術師ですら、ここまで膨大な気を保有することはあり得ない。
それは、竜真の努力の証、百年の幾星霜に渡って淀むこなく日々積み立て来た努力の成果、そして、今、消えようとする生命が気に変換された結果だ。
竜真の気はさらに広がる。
もはや、バランタインはすでに彼の気の渦中にあり、海を渡り、西は大京国へ。さらに、海洋を渡り、その先の外国へ広がる。もはや、世界は竜真の気に包まれた。
その広がりは未だ止まらない。気の流れは深海へ、あるいは、空へ、地球をも包み込む。さらに宇宙へと広がりすべての万物が竜真の気に包み込まれた。
竜真はわずかに残る意識の中で、竜真は魔術を発動させた。
禁術、時間遡行魔術。
・・・
・・・
・・・
・・・
そして、竜真は十五歳を迎え、成人した。
実は竜真は幼き頃から剣術道場に通っていたのだ。それなりに剣術の腕は良く、右に出る者はいないほど。その力量を認められ、剣術の名門、大東道場へと剣術修行へ旅立つことになったのだ。
そして、大京国の首都、古京へと行くべく、街道を進んでいたはずだったのだ。
そう、はずだったのだ・・・。
基本的に大京国への中心地、古京へ行くのであれば、主要街道をまっすぐに進むだけ。
主要交通路で、商人や旅人など人通りも多い。
地図を持たなくとも、迷うはずがない。
だが、竜真は超がつくほどの方向音痴だった。
気づけば、街道はおろか、道すらなくなり、草藪の中をかき分けている。
ふと、そこへ、お天道様の思し召しなのか、獣道ぐらいの小さな道が現れる。竜真はこれこそが古京へと続く道と、意気揚々と進むこと、約半刻。建物が見えるようになる。
村だ。
「おいっ」
・・・以後、繰り返し・・・