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108努力の奇跡:時間遡行魔術


竜真は時間遡行魔術を使うため、日々努力し、気の錬成を続けた。

どれぐらいの月日が経過しただろう。

 

竜真は努力した。

竜真に魔術の素質はない。それは魔女に言われ、葵にも言われていたこと。だが、それを凌駕しなければ、竜真の手に入れたいものは戻らない。


竜真にできることは、ただ、努力し、訓練するのみ。ありとあらゆることを排除し、すべてを努力のための時間に費やした。

人には煩悩がある。たまにはおいしい食事を食べたい、たまに怠けたい、遅くまで寝たい、たとえ、その時は良くとも、一年、二年度続ければ、あらゆる煩悩が努力を邪魔する。


だが、竜真は努力を止めなかった。全てを努力にそそぐため、食事は生命活動に必要な最小限にとどめる。

夜遅くまで訓練し、早朝には目覚め、訓練に入る。

睡眠も生命活動に必要な最小限にとどめ、それ以外の全ての時間を努力の時間に費やした。


この努力がどれほどのことか分かるか。

一年、二年程度の歳月であれば凡人でもできよう。

だが、竜真はそれではダメだ。なぜなら、彼、竜真には魔術の素質はない。だからこそ、凡人を遥かに凌駕する努力が必要だ。


その時間は、当然、一年、二年などという期間ではない。

十年が経過しても努力をやめることはない。

二十年が経過しても、竜真の生活は変わることはなかった。


ただ、葵という自分を愛しんでくれた女性を、彼女を想う気持ち、彼女を救うという意志のみが竜真を動かした。

竜真の強い意志が煩悩を凌駕した。

今、竜真が生を全うしていられるのも、その意志がすべて。再び葵と相見えんとする意志だけ、竜真の生をつなぎとめていた。


―――


その努力を始めて、百年の幾星霜が経過する。



気が付けば、頭髪は白髪となり、手足は皺となり、歩く足取りはおぼつかない。体は痩せ細り、骨と皮だけの様相となる。

この時代において、百年の年をこえて生きる人間など、万にいるかどうかの、奇跡だ。


だが、それでも、生命というものには必ず寿命というものがある。どんなに百年を超えて生きようとも、いずれは必ずやってくる。


そして、努力をたゆまなく続けてきた彼にも、それは訪れようとしていた。


ここは、ある洞窟の中。

百年ほど昔には、ここに白い大きなガーデンと呼ばれる宮殿があった。

百年の歳月が経過した今、そこは草木に覆われ、わずかに残骸を残すのみ。


すでに人里を離れて長くなる。

竜真が知っているのは荒廃したバランタインと、生き残った人々が希望を持って復興しようとしていたこと。


おそらくは、きっと立派な復興を遂げたのだろう。その後、この百年でバランタインがどのようになったのか、それを知る由もないし、彼、竜真には興味なかった。

そんなことを考える時間があれば、ひたすらに努力し、訓練をするのみ。


ただ、唯一分かるのは、この洞窟に人はいないこと。たまに野生動物がやってくるが、それもどうでもいいこと。

 

竜真はいつもと同じように、「気」の鍛錬をする。だが、彼にも寿命は近づいていた。

体が動かない。力も入らない。自身の体を支えることも出来ない。


バタン・・・。


彼はその場に倒れた。

倒れながらも、ついに悟るのだ。あぁ、もう寿命が来たと。


何年も、何年も、何年もかけて、努力を続けた。自分の人生の大半を努力に費やした。

けど、変わらなかった。もって生まれた魔術への素質は変わることが出来ない。

一体、これまでの時間は何であったか、これまでの努力はすべて無駄だったと、努力したところで何も変わることなく寿命を終える、と悟るのだ。

 

竜真は倒れながらも、まだ目は機能していた。

目を凝らすと、自身の目の前に人影が見えた。


着物姿で、身長が高く、髪は茶色。長く美しい髪を後ろでまとめあげ、緋色の花のかんざしを刺している。そのうなじが美しく、腰の帯に小さな刀を帯刀している。


あぁ、百年が経過した今でも、見間違うはずがない。百年前にも同じ姿をした人物を見た。

名を、天音、という。


「ああ、あ、ああああ」


百年という歳月は、言葉を失うには十分だった。

天音が近づき、こちらに向かってきた。

百年という歳月が経過しているというのに、昔のあの時のままの姿だ。だが、竜真にはそれさえも気づくことも出来なかった。


「もう、あなたを見ていられません・・・。」

 

天音は竜真のそばに寄り、竜真の体を起こす。


「もう十分努力しました。努力は決して無駄になりません。気づいてないだけです。あなたが、寿命を迎えたとき、望むことを念じてください。寿命の全うはこれまでもないほどの気を錬成させます。そうすれば、あなたが望むこともできるでしょう。けれど、彼女の言った『悲劇』は続きます。」


「あああぁぁ、ぁああ、あぁ、ぁああ」(なぜ、そんなことを教える。)


「あたしは、時の歪みを見つけ、この世界に興味を持ち合わせただけ。武帝や道場に辿り着いたのも、ただの偶然。たまたま、あなたが目についたのもだだ偶然です。ですが、苦しむあなたをこれ以上見ていられなかった。」


天音は竜真のそばを離れた。

だが、それも、もはや竜真にどうでもよかった。徐々に消えていく意識、これが寿命を迎えるということか。


徐々に消えゆく意識の中、竜真は時間遡行の魔術を意識した。どうせ死ぬのだ。ならば、すべての気を魔術へつぎ込もうとした。


竜真は、体内の気の流れを意識した。体内を流れる気、それは、体の外へと漏れだし、意識の混濁と引き換えに、ますます量は増えていく。

最初はこの洞窟内へと気は漏れ出し、さらに洞窟の外へ、さらに、竜真の気の流れは復興したバランタインの街中、港町へと届き、海上にまで届く。


その気の量は膨大なもの。

人には必ず「気」というものは存在する。だが訓練をした魔術師ですら、ここまで膨大な気を保有することはあり得ない。

それは、竜真の努力の証、百年の幾星霜に渡って淀むこなく日々積み立て来た努力の成果、そして、今、消えようとする生命が気に変換された結果だ。


竜真の気はさらに広がる。

もはや、バランタインはすでに彼の気の渦中にあり、海を渡り、西は大京国へ。さらに、海洋を渡り、その先の外国へ広がる。もはや、世界は竜真の気に包まれた。

その広がりは未だ止まらない。気の流れは深海へ、あるいは、空へ、地球をも包み込む。さらに宇宙へと広がりすべての万物が竜真の気に包み込まれた。


竜真はわずかに残る意識の中で、竜真は魔術を発動させた。

 

禁術、時間遡行魔術。

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