107禁書庫再び
竜真は葵の残した魔導書に書かれている時間遡行魔術に希望を寄せた。
それが実現できれば、このような悲劇を回避できるはず。
竜真は、今までの行動を顧みる。
葵は、自らのすべてをかけて、竜真を守ってくれた。なのに、自分は今まで、一体何をしてたというのか。
ただ守られるだけ守られ、ただ、絶望に明け暮れ、現実を見て、固まっているだけだった。
葵はすべてを投げうって竜真を守ってくれたというのに。
竜真は決心する。あのときを取り戻す方法があるのならば、全力を注ぐと。
そして、葵を何としても助けると。
葵が残してくれた魔導書には時間遡行魔術のことが書かれているが、竜真には情報が足りない。
何せ竜真は、炎撃程度の魔術は身につけることはできたが、魔女には素質はないと言われていた。
魔術よりも、察知の能力を高めることに専念していた。だからこそ、魔術に関する知識が少ないのだ。
ならばこそ、魔導図書館に行き、必要な情報を集めようと考えた。
魔導図書館はガーデンの地下にあった。絶魔終滅魔術の影響を受けたとしても、被害を受けている可能性は少ない。
そう考え、今は竜真はガーデンへ向かっていた。
ガーデンは国の中央、山の頂に建てられた。昔は、そこに向かう道があったが、今は灰で埋め尽くされている。木々もすべて灰となり、一歩を登るごとに足が灰に埋もれる。
ガーデンに向かうことすら一苦労だが、それでも山の頂を目指し登り詰めた。
それまで動くことなく、食事も碌に取ってない竜真にとっては、ガーデンのあった場所に行くのすら大変なことだった。だが、竜真は足を止めることはない。
やっとの想いで山の頂にたどり着くも、当然のことだが、そこにガーデンの白い宮殿はもはや存在しなかった。
ただ、ひたすらに一面に灰だけが残るだけの世界。
そこを竜真は練り歩く。
ガーデンの宮殿の入り口、階段の辺りを念入り調べると、竜真の思惑通り、一面の灰が埋め尽くすなかで、ぽっかりと穴の空いたところを見つけた。
灰で入り口は半分ぐらい埋まるも、中は無事なようだ。
竜真はなんとか、人が入れるぐらいの大きさに、灰をどけ、地下の魔導図書館を目指した。
地下の魔導図書館も竜真の予想通り、ほとんど無傷で残っていた。魔導図書館の奥には、鎖と鍵で封じられた禁書庫もあるが、そこも無事だった。
竜真がやったこと、それは書棚の魔導書を片っ端から読み漁り、とにかく、時間遡行魔術に通る情報を集めた。
時間遡行魔術は、禁術、おそらく発動には大量の気が必要になるのだろうと思い、気の錬成方法や、気の集約する魔術なども集めた。
それでも大量の魔導書がある。片っ端から読み漁るだけでも半年近くの歳月は要したのだ。
結果、分かったことといえば、時間遡行魔術に関する記述はほとんど記録に残ってない。
されど、肝心の発動方法が記載された魔導書は見つかり、予想通り、術者には大量の気が必要とされることが分かった。
大量の気を錬成する方法も、予測はしていたが、結局、気の錬成で訓練を詰むしかなかった。
ある意味、想像した通りであった訳だが、竜真は残念に思うことはない。
むしろ、発動方法がわかり、術者の気の量で発動できるのであれば、努力すればよいだけと竜真は考えた。
そうであればと、ひたすらに訓練を重ねるだけと、その日から竜真は、気の錬成に励んだのだ。
昔であれば、葵が指導をしてくれただろう。だが、その葵はもういない。
竜真は、葵が指導してくれた方法を思い出し、気の錬成に励んだ。
竜真自身、自分が魔術に長けてないことは知っている。
努力をしたところで、所詮たかが知れていることも知っている。
だから、人一倍努力しなければならないことは分かっていた。
だからこそ、竜真は、すべての時間を気の錬成に費やした。
人一番努力しなければいけないことを知っているからこそ、時間の全てを気の錬成に費やした。
ちょうど、ガーデンの地下には錬成するには適した広場が残っていた。
そこで、毎日、毎日、来る日も来る日も、気の錬成を続けたのだ。
いつか、時間遡行魔術が使えるようになり、それで、再び葵と相まみえんとするためだ。
「葵・・・」
竜真はぽつりと言葉を発するも、周りには誰もいない。
その日から竜真の途方もなく、孤独な努力の日々が始まった。