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103絶望と色と音楽の街、バランタイン
例の事件から六十日が経過した。
男はまだ生きている。男は雨水だけ取っていたようだ。
水だけを口にすれば、意外と生きられるものである。
男の前にある小さな広場はさらに大きくなっていた。
誰かが、壊れた弦楽器を直したのであろう。
調律こそ、狂っているが、ちゃんと音は出る。
金属製の箱の底を叩き、リズムをとりながら、直した弦楽器で音が流れる。
それは、間違いなく音楽。
白と黒のモノトーンの世界に、似つかわしくないような楽しい音楽を奏で、広場にいた者は踊った。
だが、佇む男には未だ、その音楽は耳に入らないようである。
ただただ、佇むだけ。
バランタインは未だ一面が白と黒のモノトーンの世界。
赤色が色づき、音楽が広がる。