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p.2

 口うるさい嫁か母親のような物言いをするAI秘書に、苦笑いを浮かべる。


「お前は、相変わらず口うるさいな」

「お前ではありません。ワタシの名前はレタリーです」

「そうだな。すまない。ところでレタリー。今日の予定は?」

「祐司の本日の予定は、午前7時、起床。朝食。身支度を整え、午前8時出勤。店舗は、当マンションの1階へと移りましたので、通勤時間は約5分ほどになる予定です。小休憩を挟み、8時半より店舗の掃除。9時開店と共に、フットのメンテナンスを開始してください」

「OK。とりあえずは、そこまでの予定把握でいい」

「了解しました」


 プツリと電源の切れるような音がして、室内が静かになった。


 俺はもう一度眼下へ視線を向けてから、鼻高々にダイニングルームへと移動した。


 一人暮らしのダイニングテーブルに朝食など準備されているはずがない。しかし、俺は、意気揚々とキッチンへ行くと、まだほんのりと熱を発しているオーブントースターを開ける。中には、程よく焼き目のついたトーストが2枚。


 それを乗せた皿を片手に、コーヒーカップをコーヒメーカーにセット。すると、トポポポポと、香ばしい匂いと湯気を立てながら、カップにコーヒーが注がれる。


 皿とカップを手に、一人で食事を取るには広すぎるダイニングテーブルの真ん中の席を陣取ると、手早く朝食に取り掛かった。


 この朝食を誰が用意したかといえば、それはもちろんAI秘書のレタリーである。


 俺の発明したAI秘書レタリーは、この部屋の全機能と連動している。炊事や洗濯、娯楽など、全てがレタリーのフルプログラム制御下にある部屋は、快適そのもの。そして、仕事においてもレタリーのフルプログラムは有効に働いており、俺は、レタリーのおかげで、この勝ち組生活を手に入れることができたのだった。


 いや、レタリーを開発したのは、俺なのだから、つまりは、俺自身のおかげということなのだが。


 俺にとって有能なAI秘書レタリーだが、その誕生は偶然の産物であった。


 もともと俺は、プログラミングと小さな発明が趣味の、しがないサラリーマンだった。日々、パソコンと向き合い、自室に籠り、これはという逸品を試作しては悦に入るのが好きな、人付き合いが少し苦手な人間だった。


 その趣味が、特に誰かに迷惑をかけたことなどない。もちろん、誰かの役に立ったこともないのだが。人畜無害のはずの俺は、なぜだか周囲の人間から疎まれ、馬鹿にされ続けていた。

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