3位でつなぐバトン
私がバトンを受け取ったとき、トップとは大きく差をつけられた2位だった。
ここからじゃ、どうやったって逆転は不可能だ。背中すら見えないはるか先を睨んで、深いため息をつく。
もちろん先走者を恨んではいない。
確かにひとつ前の走者は、落ちていた石鹸で滑り、大きく失走したけれど、それでも諦めずなんとか2位のままバトンを繋いでくれた。
そもそも、3人前の走者など派手に転けて、体中痛々しい生傷のまま、ダントツのビリで、足を引きずりながらバトンを繋いだのだ。
そう言った意味では、2人前の走者が、ごぼう抜きどころではなく、おかしかったのだ。なんたって、1人でビリから2位にのし上がってきたのだから。
一時期はこのままトップへと夢見たものだが、まあ、蓋を開ければこんなものだ。
しかしながら、1人前の走者が、なんとか死守してきた2位の座も、私には荷が勝ち過ぎた。
疾風の如く現れた紅組が、私など眼中にないように、はるか先のトップだけをまっすぐ見つめて、あっさりと抜き去っていった。
悔しくて、一時は抜き返そうと張り合うも、スタミナの差は歴然だった。
それどころか、ウカウカしていたら、後ろの4位以下の選手たちにも抜かれかねない。
心に宿った負けん気など、迫り来る恐怖に一瞬でかき消された。
しかし、すぐに追いつかれると思った4位、5位、6位が、なかなか上がってこない。
それはそれで気になり、いけないと思いつつ振り返れば、なるほど、彼らは今を楽しんでおり、ゴールなどはなから目指していないようだった。
談笑しながら笑顔で走る彼らを見て、全身に稲妻が走ったような衝撃を受けた。
そうだ、何を焦る必要がある。走ることに意義があるのだ。バトンを繋ぐことこそ大事なのだ。
彼らは人生を分かっている。分かっていないのは私だけだ。
ふと、鳥の鳴き声がした。沿道の声援に初めて気がついた。
何を恥じることがあるものか。胸を張って進もう。
走る喜びを噛みしめながら、ほぼ僅差となった3位以下の集団が、次の走者にバトンを繋ぐ。
いっぺんの淀みなく堂々と渡す3位のバトンを受け取り、さも不満そうに顔をしかめながら、次の走者が走りだした。