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5


「御倉神?」


 ふふんと胸を反らせた御倉神は何を考えているのか縁側に腰掛けて、私にも座るように促した。


「さ、さすがにここは不味いと思うのよ」


 いくら御倉神とはいえ、正武家のお役目を邪魔してはいけないと思う。

 昨年不本意ながら出会った大国主と玉彦との会話では、払いや鎮めのお役目を担う正武家に神様が干渉することは赦されていない感じだった。

 しかもその時に出てきた神様の名前は一番偉い神様だったように記憶している。


 当主の間全員の視線を受けながら、私は座り込んだ御倉神の袖を引っ張り立たせようと頑張る。

 なぜかテコでも動こうとしない御倉神に段々と私は冷や汗が流れた。

 玉彦の突き刺さるような視線が痛い。


 私だってここに居てはいけないことくらい、きちんと理解してるわよ。

 でも御倉神が勝手に来ちゃったんだし、仕方ないじゃないの。


 心の中で言い訳をしても伝わるはずもなく、ただただ時間が過ぎて行く。

 そんな中で動いてくれたのは南天さんだった。

 事の成り行きを見守っていた澄彦さんに願い出て、私と御倉神のところへ苦笑しながらやってくる。


「な、南天さーん」


「困った方ですね。何故ここにいらっしゃったのですか」


 この言葉は私ではなく御倉神に向けられたものだ。

 御倉神の隣に正座した南天さんは私に微笑んだ後、御倉神に向き直った。


「乙女と散歩じゃ。ここは休憩処じゃの」


「左様ですか。しかしここではお茶菓子など出せませんから、母屋の方でご休憩されては如何でしょうか」


 食べ物に釣られやすい御倉神の習性を熟知している南天さんが水を向けても、御倉神はふいっと顔を背けてそれ以上の問答を拒否する。

 こんな頑なな御倉神は初めてで、私と南天さんは思わず顔を見合わせた。

 こちらの様子を眺めていた澄彦さんは気を取り直して居住まいを正し、パチンと扇を閉じる。


「皆の者、暫し休憩とする。鰉、客人を一旦控の間に通せ」


 倒れてしまった襖を嵌め直していた那奈が着物の裾を直して、静々と浅田さんたちの前に進み出、彼らを廊下の向こうへと先導してゆく。

 彼らが座っていたところには捜査資料と思われるものが散乱していたけど、すぐに須藤くんと多門が片付けてしまった。

 澄彦さんが腕組みをしてこちらへ来ても御倉神は背中を向けたまま振り向きもしない。


「で、これはどうしてこうなったのかな」


「す、すみません」


 肩を竦ませて謝れば、御倉神の横顔の頬が膨らむ。


「乙女が謝る必要などない」


 一体全体御倉神は何が気に喰わないのか、態度を軟化させない。

 神様ってちょっとズレてるから何が原因なのか見当もつかない。

 そうこうしていると玉彦が私と御倉神の背後に片膝をつく。

 そして私と御倉神の頭をガシッと両手で掴み上げる。


 こっ、こいつ。

 私はともかく御倉神にまで、と思う間もなく押し殺した玉彦の声が私たちを襲った。


「如何なる理由があろうとも役目に水を差すなど言語道断」


「うっ……。だからごめんって……」


「いっ、痛いではないか……」


「早々に立ち去らぬ場合は縄で木に縛り上げるぞ」


 玉彦の指先に力が込められてキリキリと頭が締め付けられる。

 それは御倉神も同じだったらしく、鉄扇で玉彦の手を払いのける。


「おぬし、神に何ということをする」


「何が神だ。神ならば神らしく黙って祀られていろ」


 僅かに緩んだ玉彦の手から抜け出した私は少しだけ乱れた髪を整える。

 御倉神は不貞腐れて鉄扇で口元を隠して私の肩を抱き寄せた。


「乙女が仲間外れで可哀想ではないか。物憂げに溜息を吐く姿など見とうないわ」


 いや、私は別にそんなに凹んでいた訳じゃないんだけどな。

 理由が理由だし、二人の思い遣りは痛いほど感じていたので無理矢理参加したいとまでは思って無かったんだけども。

 けれども御倉神の言葉を聞いた二人はそれぞれに何かを考え始めたらしく、無言で二人揃って当主の間の奥の襖へと姿を消した。

 残された私たちは南天さんに促されて、澄彦さん側の母屋に繰り出したのだった。



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