表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/222

3


 事の発端は昨年の秋まで遡る。

 私は新聞とテレビとネットの情報しか知らないので、どこまでが本当でどこからが憶測なのかは定かではない。


 最初は本当に小さな事件だったそうだ。

 近所で小動物の首が切られて殺された事件が何件も起こった。

 当初は愉快犯かと思われていたけれど、警察が調べると人間の仕業ではなく、野生動物の仕業だと判明した。

 死体から動物の歯型が発見されて。

 狐やタヌキ、もしくは野生化したアライグマが犯人だろうと一件落着したのだけれど、実は同時期に複数の地域で同じことが起こっていたと後からの捜査で判明したのである。

 なぜ後からの捜査になったのかというと、小動物ではなく幼い子供が犠牲になったことから警察が殺人事件として動き出したから。


 それから警察は殺人を視野に入れて捜査を開始したのだけれど、遺体に残されているのは動物の歯型で、人間が犯人とは思えない。


 そうこうしているうちに、二件目の殺人が起こる。

 今度は小学生の姉妹が犠牲になった。

 首を噛み砕いて息の根を止め、内臓だけがすっぽりと無くなっていた。

 そしてやはり遺体に残されていたのは、動物の歯型。


 年が明けて、一月。

 事件が遭った隣県で、老夫婦が家の中で同様の犠牲に遭う。

 それから毎月、違う県で高校生と主婦が犠牲になった。


 今は四月。

 まだ今月の被害は聞いていないけど、たった半年の間に七人の人間が同様の手口で死んだ。

 獣の歯型が残され、肉体を喰われるという凄惨な事件はワイドショーの格好の話題になった。

 連日どこかの局で特集を組んでいるものだから、私が台所に姿を現し、テレビがその内容だと皆一様にチャンネルを変えるか電源を消してしまう。


 なぜなら。


 私の家族が亡くなった時の惨状に酷似していたから。


「知っているなら話は早い。あまり婦女子方にはお見せできるものではないと浅田から警告があったんだ。だから、ね?」


 澄彦さんは明るく伝えようとしていたけど、瞳は僅かに揺らいでいた。


 私の心を乱さないように。

 家族を思い出して泣いてしまわないように。

 出来るだけ悲しい思い出は封印しておくように。


 ここで澄彦さんの気遣いを無下にするほど私だって子供ではない。

 こくりと素直に頷けば、澄彦さんはホッと肩から力を抜いた。


 でもさ、って私は思う訳よ。


 私の家族の事件は一応は解決している。

 動機は明確で、犯人はもうこの世にはいない。

 じゃあ、今回の事件は誰がどうやって犯行に及んでいるのか。

 警察関係者が事件を正武家に持ち込むということは、人外であるという誠に遺憾な事実なのだろう。

 果たして正武家がどのように事件を解決に導くのか、興味がある。


 うずうずしそうになって、隣の玉彦を見ればいつの間にか彼も私を見ていた。

 呆れた顔をして。


「玉彦、あのね」


「お前、今、父上の言葉に頷いたであろう」


 私の声を遮るように玉彦が言葉を被せる。


「それは当主の間でのお役目の席を外すってことでしょう? 今回のお役目に首を突っ込むなって言われてないもん」


「うわぁ……。比和子ちゃんの理解力って都合が良過ぎる……」


「では改めて俺から言ってやろう。此度の件には首も口も突っ込まず挟むな。これは次代としての命である」


「ぐっ……」


「これは正武家に持ち込まれた事案であり、神守のものではない。と付け加えておく」


「……」


 ぐうの音も出ない程の先手を打たれて、私は玉彦を睨み付ける。


 けれど玉彦は無視を決め込んで無反応だ。


「ま、まぁそういうことだから比和子ちゃんは大人しくしているようにね? それに受けるかどうかも分からない事案だからね」


 苦笑いしつつ澄彦さんは座敷を後にして、私たちも早々に立ち去る。

 母屋までの帰り道、何度も玉彦の名前を呼んで話しかけたけれど、彼が私に答えることは無かった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ