4
固まる私の目の前でぴしゃりと竜輝くんが引き戸を元に戻した。
「比和子さん。流石にここへ入るくらいなら正武家へとお戻りください」
「も、戻らないけど、ここはやめとこ」
二人で頷き合い踵を返すと、音もなく引き戸から出てきた先ほどの金髪に二人揃って肩を掴まれた。
「ちょい待ち。お前ら、あれだろ。な? 占い婆」
彼はそう言うと私たちの返事を待たずに辺りを見渡してから、中へと引きずり込んだ。
で。
私は今、竜輝くんと並んで先ほどのカウンターでオレンジジュースを前にしている。
竜輝くんの左手には白いドレスのお姉さんが座り、私の右手には金髪が座る。
正面にはダンディが陣取っている。
「どうよ、雅。こいつら使えそうか」
「うーん。こっちの坊ちゃんはともかく、そっちのお嬢さんは私たちには荷が重いわねぇ」
「使えねぇの?」
「馬鹿ね。逆よ、逆。扱いをしくじれば私たちが返り討ちに合うわよ」
「マジかよ……。何だってそんな奴がこんなとこうろついてんだよ」
「ホントにねぇ。よくもこんなのでどこからも目を付けられなかったものだわ」
「ああ?」
「無派閥ってことよ。どこにも属してない。だってそうでしょう? こんなのだったら引く手あまたで仕事探しなんてしないでしょう?」
「まぁ、そうだな。で、お前たち、なんなの?」
大人しく二人の会話を聞いていたら、不意に話を振られてどうしたものかと考える。
とりあえずここは大人の私が話をするべきだろう。
「込み入った事情があって、二人で行動しています」
「ほうほう。で、事情って?」
「それは、ちょっと……」
出て行けと言われて馬鹿正直に出て来て、実家がある通山に来ただけなのだ。
そこに五村の意志が絡んでいると思っているけど、どんな意志なのか解らないので何とも言えない。
それにどうやらこの人たちは不可思議な事案にも詳しそうな雰囲気なので下手に正武家の名や鈴白村というキーワードは口にしてはいけない気がする。
特に雅と呼ばれた私よりも少し年上の女性は金髪よりも詳しそうだ。
「んじゃ、名前は」
「比和子です。こちらは竜輝です」
「……名字は」
「すみません……」
それ以上は聞いてくれるなという雰囲気を醸し出せば、金髪はあからさまに不機嫌になった。
雅は苦笑して立ち上がり、金髪の手を引いて奥へと消える。
ほっと緊張から解放されてグラスに口を付けると、ダンディがニコリと笑ってオレンジ百パーセントだと聞いてもいないのに教えてくれた。
何というかやっぱり、来るとこ間違えた感が満載だ。
「竜輝くん……。とりあえず二人が戻って来たら、挨拶して帰ろう。あの、お代はいくらになりますか」
汚れてもいないワイングラスを磨くダンディは片眉を上げてサービスです。と言ってくれたのでお言葉に甘えようと思う。
この人は良い人だなと思っていたら、ダンディは再びニコリと笑った。
「正武家次代の奥方様と御門森の跡継ぎが揃って何をしておいでですか」
「え……?」
言葉に詰まった私を横目に、ダンディは小上がりにいた四人に今日は店終いだと声を掛ける。
すると彼らは大人しく帰り支度を終えて出て行った。
お店の戸がしっかりと閉められたのを見計らって、ダンディは私に軽く頭を下げた。
「祝言の折に参列致しました。わたくし、陣行平と申します。先ほどの者はわたくしの娘雅と息子の高彬と申します」
私は自分の血が一気に引いて行くのを感じた。
思っていた以上に正武家と云う名家は、その筋には有名であると思い知らされた。
きっと行平さんから正武家へと連絡が入り、私たちは連れ戻される。
「陣、さんですか。もしかして緑林村の」
竜輝くんが口を挟むと、行平さんは顎を深く引いた。
「そうです。緑林村の村長はわたくしの叔父にあたります。わたくしもそこで育ちました」
と、いうことは。
行平さんは少なくとも五村の出身で、そういう力があり、正武家を知っている。
ならば正武家に関する五村の意志が存在するということを知っているんじゃないだろうか。
だったら正直に話をして、五村の意志を尊重し、正武家には連絡をしないでほしいとお願いすれば協力してくれる。かもしれない。
私は腹を括って、まだ竜輝くんにも話していなかった今回の出来事に五村の意志が絡んでいるかもしれないことを行平さんに洗いざらい話てみた。
同時に竜輝くんにも聞いて欲しかったし。




